第11章 闇のオークション 2

「レディースorジャエントルマン。皆さん今日は待ちに待った、闇のオークションの開催日です。ここで扱われるのは全ては政府非公認でありながら、一部のマフィアや闇企業には人気の企画となっています。人気企業のコレクターの皆さんには絶賛好評である商品ばかりを取り揃えております。大いに盛り上がっていきましょう」

 客席から歓声や拍手が起こる。そこからはオークションのルール等についての説明が行われた。

「ルールは一番シンプルなイングリッシュオークション方式です。落札したければ最も高い金額を提示する事。最終的に一番高い価格を提示出来ればその人が買い手になります」

 オークション参加者だけが見れる品物のデータが、脳内のマイクロチップに流れ込んでくる。そのデータはオークションのシステムとすぐに共有された。中央のモニターに登録した個人情報が映し出される。Zたち軍警察が作った偽の名前と所属組織はバレずに済んだようだ。不正を無くすためのシステムだと司会者がマイクで叫んでいる。

「それでは競売をスタートします。まずは第一の品がこちら」


 会場の中央にいる司会者の近くの床がまた上に上がって言った。そこには今から競売にかけられる商品が置いてあった。

「こちらは赤い雨に当たっても溶けない特別性の合金で出来たアメリカ産の時計。まずは1万円からスタートだ」

 会場の全員が共有しているネットの中にその時計細やかな詳細が表示される。

『1万5千円』

 共有システムの中にある自分専用の欄に金額を入れるとオークション参加者全員に見れる様になっている。

『2万円』

『5万円』

『6万円』

「さぁさぁ、まだいるのかぁー?」

 司会者もテンションを上げてきた。

 入力される都度に金額が上がっていく。だがそれは永遠に続が無かった。

『11万』

「おおっとーここで10万超えが出ました。さぁこれ以上上はいますかぁ?」

 司会者は中央でモニターを見ながら実況している。11万の数字から暫く変動は無かった。やがて脳内の共有システムに金額を投入する欄が消えた。

「はい。時間切れです。最終的に入札されたのはマロンさんの11万円。ではこちらに来て商品を受け取って下さい」

 マロンと言われた男が中央のリフトから出てきた時計を手にする。拍手が起きて一つの品が終わった。


 そこから2つ目、3つ目と品物が続いて落札された。会場のボルテージが上がってきた。熱気が会場を包む。

「さぁ皆さん、次は今回の目玉商品。《踊るAI》だぁ。最高級の技術によって描かれた、人類初のマイクロチップ画家によるアート。初手5億からのスタート」

 Zは脳内のマイクロチップに表示された共有システムに自身の資産総額をインストールした。これは共有しているオークション会場の人間が見れる。中央の大きなモニターにも情報が映し出された。


 エンペラーハウスの一員であるミナミも資産総額をインストールした。他にも様々な人間が《踊るAI》を手に入れようと共有システムに資産総額を入れて参入してきた。この中で《踊るAI》の本当の価値を知っているのはどれほどだろうか。少なくとも軍警察が潜入しているはずだ。『警戒しろよ』とミナミはマイクロチップで部下に語りかけた。


『6億』

 ハットを被ったアイコンの男が共有システム内に金額をインストールしてきた。Zはそれを見て、その男を睨みながら金額を上乗せする。

『7億だ』

『8億よ』

 すぐに金額は更新された。

「おおっと、これはかの有名な美術研究員のナオミ氏だ。この人に渡れば《踊るAI》の秘密を解明してくれるに違いありません」

「そうだ。大人しくナオミさんに引き渡せ」

 この業界では、ナオミという偽名で名を通してあるミナミは、会場の声援を受けた。

『10億』

 Zは一気に金額を上げた。

「ちょっと隊長。あまり上げると予算が…」

Zはマイクロチップでリナに喋りかけられた。

「金なら政府の上層部から出る。デスエクスの確保の為の金だといえば出してくれるさ」

 会場のボルテージもさらに上がってきた。

「さぁ出ました、10億。ここからは超えてくる人はいるのでしょうか?」

『12億』

 ミナミが更に上を更新した。取り逃す訳には行かない。経費は会社から出るだろう。デスエクスを手に入れる為に惜しんでいる金は無い。


「あのナオミとか言う女。美術研究員の割には金を持ちすぎでは無いか?」

 今度はアオタがZにマイクロチップで繋いできた。アオタはどうやら疑問を持っている様だった。

「ああ、俺もそう思う。ホラ、あいつの個人情報を探れ。経歴に矛盾点が出てきたら後で職質だ」

「了解」

 マイクロチップ越しに声が聞こえた。Zは金に糸目をつけぬ事を決めた。

「俺はここで仕掛ける」

 そう言って更に金額をインストールする。

『20億』

 会場がざわついた。司会者も一瞬だけ言葉が出てこない様子だった。

「にっ、20億が出ました。ここから上がる事があるのでしょうか?」

 

 ミナミはZの事を睨んだ。ゼディー(Zの偽名)と言われるあの男は経歴では政府公認エクスの経営者となっていた。ミナミは20億以上の金を出さなかった。出るものが出た。ゼディーが軍警察なのか、そうでなくとも《踊るAI》にここまでの金額を出せるのなら只者では無い。作戦実行だ。


 20億から先、誰も上回る金額をインストールして来ない。Zの《踊るAI》の落札が決まった。Zは歩いて中央にあるバーチャルでは無い本物の《踊るAI》を受け取るよう司会者から呼ばれた。

「おめでとうございます。見事20億円で《踊るAI》を落札されましたゼディーさんにリフトの上に立って貰います。改めて20億のその絵を掲げてください」

 Zはしょうもないパフォーマンスだと思った。だが、偽名と偽の組織名で潜入して身だ。ここは我慢だ。

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