第11章 闇のオークション 1
オークション会場の大きさはざっと東京ドームと同じぐらいだった。地下3階、地上5階で構成されている。闇のオークションの情報は世の中に公開されていない。軍警察ですら、中で何が起きているか把握していない。恐らく関連企業がマイクロチップの情報統制をしているのだろう。
Zは銃に弾を装着した。ヘルのマイクロチップから抜き取った情報では、密売人が100人。さらに、その密売人が雇った戦闘要因のマフィアが2000人程で周囲を警備しているらしい。そして主催者グループが至る所で監視カメラを設置していた。
「イクノ…、こいつが闇のオークションの主催者か」
アオタがマイクロチップでイクノの個人情報を見ていた。詳細は不明だが、企業が雇った人間だろう。軍警察特殊部隊は企業の人間を令状無しで正当防衛で殺害出来る。だが、それは今回の目的では無い。あくまでデスエクスの確保とエンペラーハウスの壊滅だ。軍警察特殊部隊は現在、闇のオークションに正体を偽って潜入していた。
エンペラーハウスの幹部の一人、ミナミはオークション会場の1階から地下に向かっていた。妖美とも言えるぐらい美人でスタイルが良いので、すれ違う人が振り返る事もあった。だが本人はそれに慣れているのか、気にしている様子も無い。
「軍警察には気をつけろよ。奴らはヘルの死体を回収している。すぐにマイクロチップの情報を抜き取ってオーディションにやって来るぞ」
エンペラーハウスのボス、テンオウがミナミのマイクロチップに話しかけてきた。
「そんな事は分かってるわ。その辺りは軍警察嫌いのイクノに上手く盾になってもらう予定だ。なんならそこでイクノ達と軍警察が相打ちしてくれたら都合が良い」
「常に最悪の展開を考えろ、ミナミ。それが俺からの命令だ」
「はいよ。上手くやるわよ」
ミナミはそう言ってマイクロチップの通信を切った。
地下に行くにはイクノが用意したAIによる強固なセキュリティを突破しなければならない。もし弾かれるとすぐに警報が作動して、周囲を警備しているマフィアに殺される。
ミナミはセキュリティのドアの前に立った。監視カメラにミナミの体が映り込む。
『
ミナミは美人研究員という別の活動名とナオミという偽名を使っていた。それはミナミの別の顔でもあった。イクノが幾ら調べてもエンペラーハウスのミナミには行き届かない様になっている。
地下には本日のオークションに出品される品物が大量に並んでいる。ツシマやその関係者が一つ一つ傷がないかチェックしている所だった。
「おや、これはナオミさんですね。話は聞いてます。オランダから輸入された《踊るAI》を所望なのですよね」
イクノがこちらに気づいてやって来た。
「ええ、その絵画の価値は世に埋もれてしまった。恐らく、今回一部の絵画コレクターが高値で落札して来るだろう。でも、それを偽物とすり替えて貰いたい。世間では正当に落札されたことにして欲しいからな」
「既にナオミさんのバックアップ企業から多額の裏金を貰っています。必ずそうしますよ」
「助かるわ。じゃ、後でお礼しに行くので、じゃ」
政府の許可をとっていない闇のオークションでは、主催者に裏金やコネを作ることは上等手段だった。その為にはライバルとなる人間を暗殺したりもする。しかし、今回の相手は軍警察特殊部隊なのでミナミは少し罠を張ることにした。闇のオークションにはエンペラーハウス以外のマフィアや犯罪者も多数出席している。リスクはあったがデスエクスを手に入れる為にはやるしか無かった。
一方スズラカミとZ率いる軍警察特殊部隊は闇のオークション会場に居た。移動用ドローンの中でホラが闇のオークションのサイトをハッキングし、偽名と偽の組織名を名乗って侵入した。
Zは周囲に黄色い服を着た人間が居ないかを探っていた。黄色がエンペラーハウスの象徴的な色だからだ。すると脳内にAIからのアナウンスが響いた。
『オークション開始3分前になりました。ご参加のお客様は指定された席にお座りください』
「チッ、もう始まりか。席から見える人間にも注意を払え。奴らは必ず何処かにいる」
Zは再び辺りを警戒した。他の軍警察特殊部隊のメンバーを2階席の客を見渡せる場所に座らせた。スズラカミはZと一緒に一階のオークション物品が渡せるポジションに着いた。
開始1分前。会場の外で待機させていたリナから異常がないと報告があった。リナの見ている先には会場の外を警戒しているマフィアの姿があった。地下ではツシマ率いるオークションの司会陣が最後のチェックを行なっている。
ミナミは目を瞑って始まりの時を待っていた。デスエクスを起動させる鍵の一つであるIDをなんとしても手に入れる。エンペラーハウスにしてもこの作戦は重大で失敗は許されない。例えこの会場の全員を殺してでも手に入れるつもりだった。
やがて強い灯りが沸き起こり、それがオークションの合図となって会場に光を照らした。ミナミはその光で目を開ける。中央の何もない場所に穴が空いた。中からリフトに乗ってツシマと司会の人が数人出て来た。ここからが本番だった。
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