第9章 再開 3

 自動歩行信号技を起動した。手には銃が握られている。Zはそのまま飛び上がった。空中からシーザスを見下ろす。狙いを定める。頭の部分に数発。シーザスは反応出来ていない。銃弾が頭にめり込む。外皮部分にヒビが入った。

「よし」

 Zはシーザスの頭に飛びついた。自動歩行信号技術は人間の肉体の真の力を引き出す。火事場の馬鹿力。Zは思いっきりシーザスの頭を引っ張った。頭が体から離れようとして浮いてきた。だが、大量の線や金属ではまっている頭を引きちぎるのは至難の技だった。

「ぐぬぬぬ…」

 さらに力を込めた。逆に腕が引きちぎれそうになる。腕が痺れてくる。

 ブチチチチ…

 ようやくシーザスの頭の部品が取れてきた。次々と線が千切れていく。最後に一番太い線が残った。Zはその線を掴んだ。思いっきり引っ張る。電気を放出しながら線は千切れた。

 シーザスは機能停止した。首なしとなったシーザスは倒れた。Zも力を使い果たしたように尻もちを付いた。手にはシーザスの頭を持っている。


「まさか、生身の人間がシーザスを倒すとはな‥」

 ヘルは少し離れたところからその様子を見ていた。その時、脳内のマイクラチップに声が響いた。

「ヘル、例のものは回収出来たのか?」

 エンペラーハウスのボス、テンオウからの連絡だった。

「はい、デスエクスのIDとパスワードの場所が示された地図はシーザスの脳内に隠されてました。今からそちらにデータを送ります」

「良くやった。俺もすぐにその場所に向かう。お前も合流しろ」

「了解」

 ヘルはそう言ってマイクロチップの空間から現実に戻った。そこにシーザスの頭が転がってきた。

「シーザスから抜き取ったデスエクスの情報をこちらに渡して貰おうか」

 Zとスズラカミがこちらにやって来た。軍警察は次々エンペラーハウスの社員や、その他の違法取引をしていた人達を逮捕、殺害していた。

「軍警察が…」

 ヘルは自動歩行信号技術を起動した。ヘルの身体能力が向上する。

「あくまでも邪魔をする気か。スズラカミよ、こいつには容赦するな。殺しイコール逮捕だ」

 そういうとZは自動歩行信号技術でヘルに飛びついてきた。ヘルも応戦する。しかし途中でヘルは二人の姿が2.3重に被って見えた。スズラカミのマイクロチップハックだ。焦点を失ったヘルはZに拘束される。


「悪いな、あんたの頭の中を見せてもらう」

 Zは銃を取り出し、容赦なくヘルの心臓を撃ち抜いた。これで脳は動かずマイクロチップだけが動いた状態になる。死んだ脳にはIDとパスワード無しでマイクロチップに潜入出来る。

「ホラ、移動用ドローンでこの死体を回収しろ。中に電気羊が入っている。スズラカミ、お前も来い。エンペラーハウスを潰すまで引き続き俺達の協力者になってもらう」

「えらく強制だな」

「お前は俺以外の軍警察の連中なら取り調べを受けていた。だが、俺にとってお前は学生時代の恩人だ。だから協力者になって結果を出すことで過去にやってきた事が免除されるかも知れない」

「そうか、ならば同行する」

「そう来なくちゃな」

 Zはそう言ってホラとのマイクロチップの通信を切った。


 乱戦が治らない中、巨大な影が現れた。コンテナヤードで戦っていた全員が上を向いた。移動用ドローンがどこからともなく現れたのだ。

「第三部隊は全員ドローンに乗れ。デスエクスのIDとパスワードを回収しに行くぞ。後片付けは一般の軍警察がやってくれる」

「了解」

 ドローンから複数のワイヤーが戦場と化しているコンテナヤードに降りてきた。一本のワイヤーごとに一人が捕まった。それぞれドローンに回収されていく。

「行くぞ、スズラカミ」

 Zとスズラカミはワイヤーに捕まり、空に浮いた。ワイヤーから移動用ドローンに乗る間に地上から銃弾を浴びせてくるエンペラーハウスのメンバーが数人いた。Zとスズラカミは体を振って上手くそれらを交わした。移動用ドローンに先に乗っていた軍警察の仲間がいた。その仲間からの援護射撃でZとスズラカミは無事に乗車出来た。


「良し、全員いるな」

 Zは移動用ドローンの中にある武器庫で場所で待機している仲間に呼びかけた。

「その男のことを信用出来るのか?」

 アオタがスズラカミを指差した。

「信用はしていない。ただ今回のデスエクスの回収任務にもってこいの人材だ。元マイクロチップメンテナンス屋でシーザスと戦えるぐらい戦闘力も高い。一旦協力関係を結ぶだけだ。契約が切れ次第、事情聴取するつもりだ」

「だが、只者じゃない目をしているな。問題を起こさなければ良いが…」

 アオタはそれだけいってソファの上に寝転がると、映像のエクスを見て現実逃避し始めた。

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