第9章 再会 2

 コンテナの冷たい感触が背中に当たった。スズラカミは死を覚悟した。コンテナを切断する威力の刃が付いた腕が6本と機関銃4つが自分を狙っていた。


  この先は海。逃げ場はない。それ以外のルートはあの黄色い服の組織の奴らに塞がれている。


 その時、青い電撃がスズラカミを照らした。走馬灯ではない。これはジャミングの上位互換、電波フラッシュバンだ。


 スズラカミは何が起こったのか理解できなかった。電波の影響でスズラカミのマイクロチップも半分ぐらい機能していない。アだが、シーザスの動きが止まった。そこに向かって来る人物がいた。


「危機一髪ってとこだな、スズラカミ。俺はあんたがここで何をしているかは知らない。でも、これは仕事だ。たった今からこの場所は軍警察が取り仕切る。昔のよしみだ。目を瞑ってやるから、事情聴取に応じてもらおうか」

 軍警察のZだった。

「助かったぜ、。結局は軍警察に入ったのかよ」そういうとスズラカミはニヤッと笑った。

「その名も懐かしいな。もう昔の俺とは違うぜ」

「そのようだな。少なくとも犯罪に巻き込まれるような奴じゃなかった」

「ふん」


やがて電波の影響は薄れた。メンテナンス時代の勘で攻撃の気配スズラカミは瞬時に自動歩行信号技術を起動さた。Zに体当たりした。体ごと吹き飛ぶZ。

Zは吹き飛ばされながら、自分がいた場所に銃弾が打ち込まれているのが見えた。

「あんたの電波フラッシュバンは対戦車用だろ。あれは自立致死兵器でジャミングをしても自動的に復旧するようになっているんだ」 

「すまないな助けてくれて。少し目が覚めたよ」

 Zは脳内のマイクロチップから軍警察の仲間に呼びかけた。

「シーザスは俺が排除する。ホラはマイクロハックの援護を頼む。他のやつは組織を潰せ。抵抗してくるなら殺しても構わん。それから俺の横にいる、スズラカミには手を出すな。俺が後で対応を指示する」

「了解」


 Zの軍警察第Ⅲ部隊はそれぞれやるべき方角へと移動していった。

「Zさんの脳内マイクロチップとシーザスを繋げました。いつでも幻覚を見せれますよ」

 ホラがZとスズラカミの後方にスタンバイする。

「シーザス破壊措置を講じる。スズラカミ、あんたもこれから強制的に軍警察の協力者になってもらう。悪いが軍警察特殊部隊には民間人を現場の判断であえて巻き込ませる権利がある」

「くだらん権利だな。俺がそういうのが嫌いだと知ってるだろ?」

「愚痴なら後で聞く。こいつを壊さないと命が危ないのはすぐメンテナンス屋のお前ならすぐに分かっただろ?」

「過去の話だ」


 スズラカミはそういうともう一度自動歩行信号技術を起動させた。再び力が湧いてくる。

「おい、作戦はこれから…」

「俺は頭の部分を狙う。恐らくアレは人間と同じように頭の部分がメインコンピュータだ」

 スズラカミはそういうと何処かに移動して行った。

「仕方がない奴だな。ホラ頼んだ」

「もう侵入してますよ」


 ホラはヨーヨーのような伸縮自在の紐がついた、二つの球を取り出した。

「この球には電波フラッシュバンの効力がについる。それは常に運動させることでエネルギーを蓄える充電式だ」

 そのまま球をシーザスに打ち付けた。青い電撃が走る。動きが鈍くなる。Zがその先に銃でシーザスの足に数発の弾丸を浴びせた。だが、あまり効いている様子はなくむしろ、機関銃を放って反撃をして来た。だが、その弾丸の起動は正確では無かった。Zは難なく、機関銃からの弾丸を避ける。まだ電波フラッシュバンの影響で上手く体をコントロールできていなかった。


 スズラカミはZとホラが対峙している隙に、IOTの接続をたどり、シーザスの視覚が通らない背後へと回り込んだ。そのまま、拳銃を手に取り、後頭部に狙いを定める。だが、シーザスの頭が180度回転して、スズラカミの方を向いた。

「センサー付きだったか…」

 シーザスは6本の腕を器用に振り分けて、背後に居るスズラカミを襲った。だが、予め逃走ルート用のIOTへと接続していた為、直ぐに避けた。


「アサヒ、あいつの視覚は偽りだ。360度体温感知センサーが体の何処かについている。お前の仲間のジャミング一つじゃ動きを止めれない」

 スズラカミはZ(正式名称はアサヒ)にマイクロチップを通じて脳内に直接喋りかけた。

「そのようだな。何か手はあるか」

「俺のメンテナンスの経験上、マイクロチップハックとジャミングをタイミング良く同時にぶつける。それで、あのデカブツのIOTは対応出来なくなる筈だ」

 シーザスは体制を立て直してZとホラがいる方向を向いた。


「俺がマイクロチップハックを行う。ホラとかいう奴は俺がやるタイミングでさっきの電波フラッシュバンを当てろ。アサヒはそれでシーザスの動きが止まったら自動歩行信号技術で頭をもぎ取れ」

「了解」

「Z さん、奴の言う事を信用しすぎでは?」

 ホラが心配そうにZの脳内に語りかけてきた。

「俺とあいつは昔の馴染みだ。それにスズラカミの今までの発言は合理的で的を経ている。問題はない」

Zはスズラカミの事を懐かしむ様子だった。


 スズラカミはシーザスから見えない位置に来た。そこからシーザスのIOTの深層領域まで侵入するための準備に取り掛かった。シーザスのコンピュータにある、自我を取り持つ場所。そこに入るにはIDとパスワードがいる。これを持っているのは恐らく組織の連中だけだろう。だが、マイクロチップハックによって、まるで蜃気楼のようにIDとパスワードを突破されたと相手に見せかけることが出来る。それは機種から発生している電気信号の問題だ。そこに乗せればそのままジャミングをコンピュータに送ることが出来る。


 シーザスの動きが明らかに変化した。足元がふらつき、その場を行ったり来たりしている。シーザスの視点では、この世の全てのものが2、3重に見えて視点が合わない。それでもやがてIOTの場所が移動していない事に気づき、修正して来るだろう。そうなる前にホラはタイミングを合わせて電波フラッシュバンを投げた。これによってシーザスはIOTの接続と視野の両方を失った。Zは反撃の準備に取り掛かった。


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