第7章 確かな証拠 1

「なぁスズラカミ。体調とか大丈夫か? 最近ミス続きでとかで上手くいってないのか知らないけど急に発狂したり、笑ったりと変な行動が目立つぜ。エクスのセラピーとか受けてるのか? よかったら心療内科とか行ったほうが良いんじゃないか?」

 ヤタはベンチに座っているスズラカミの隣に座って声を掛けた。こいつがこんな事を言うのは無理もない。


 スズラカミはダークエクスを利用し始めて1ヶ月ぐらい経った。その間に今までに見たことがない快感に襲われた。と同時に絶望も味わった。


 1ヶ月経って分かったことはダークエクスにもジャンルがあってそれぞれ載っている量が違う。一番多かったのが政府によって過去に隠されていた犯罪だった。これだけでもスズラカミは満足した。だがそれよりもその中に犯罪者は政府に対し不満やストレス持ちそれを犯罪を犯すことで快楽に変えているケースがあることだった。その経験を脳内で済ませんことがスズラカミには一番の快楽となった。 


 一方で最近、些細なことで怒るようになった気がする。今まではどちらかといえば人生に対して何も希望が持てなかった。単純に無気力だった。


 スズラカミは何度か企業内や日常生活でトラブルに巻き込まれた。企業内では主にミスが増えた。資料を期限内に作れないことが多々あった。日常では一人で呟いたり、急に怒鳴りだすなどの奇行が見られるようになった。


 これらのことが起きるたびにダークエクスを使って気を沈めるようになった。何故かダークエクスを見て数時間は心が落ち着く。一種の禁断症状だった。


 でもそんなことは同じ企業の同僚には言えない。だから何とか誤魔化していた。

「気にするな。俺は今ハッピーな気分なんだよ」

「気にするなって言われてもなぁ。それ目が泳いでるぞ。何かの病気じゃないだろうな…まぁ、マイクロチップ内に何か答えはあるだろ。政府は何か答えをくれるんだからな」

「その政府は偽りで出来ていんだけどな」 スズラカミは目を逸らしてささやいた。

「どう言う意味だ?」ヤタは眉に皺を寄せて聞いた。

「さぁな。それは自分で確かめな」

 あえて答えは言わなかった。

 スズラカミはこれ以上話しても無駄だと思い、去り際にヤタの方に手を置いて出て行った。


 残されたヤタはスズラカミに不信感を覚えた。今までスズラカミは心の奥に不安や不満があってもそれを押し殺し、自分の仕事を全うしていた。だが最近になってそれが吹っ切れた様な言動が続いていた。それも妙に楽しそうだった。


 それは何度かマイクロチップ内のニュースで目にしたダークエクスによる副作用と似ているとヤタは思った。だがこの件に関しては俺だけでは不安だった。だからもう一人スズラカミの事を比較的よく知っているナハヤの意見も聞こうと思った。

 

 スズラカミはその場から離れると笑みが溢れて来た。何もかもが可笑しかった。きっと俺の今の心を覗いたら誰もが悪魔だと思うだろう。だが俺からしたら、企業の連中こそが悪魔だった。強いて言えば、本当の悪魔が誰なのかも分からないまま、ただ死に向かって直進している愚か者にしか見えない。どいつもこいつも騙されてやがる。

 


 ヤタは、公園のベンチに座っているナハヤを見つけた。

「悪いなこんな場所に呼び出しちまって」

「寧ろサボるにはうってこいじゃないか、この公園」

 巨大なビルのコンクリートに囲まれたその場所は都会の中のオアシスといった感じだった。

 ナハヤは太った体でジャンクポテトをむしゃむしゃ食べながら聞いた。

「で、企業に言えない相談ってなんなんだよ?」

「それが、最近のスズラカミの様子のことなんだが、なんかあいつの最近の言動ちょっと変じゃないか。性格が以前と変わった言うかなんというか…」

「なんだヤタも気づいていたのかよ。似てると思わないか、ダークエクスによる副作用に」

「うーん、考えたくはなかったけどなぁ。スズラカミは同僚だし、ダークエクスって違法性があるから使って、バレたら多分この会社クビじゃん。だから助けてあげたいなと思ってよ」

「本当かよヤタ。でも手段は少ないと思うぞ。少なくともスズラカミにダークエクスを使っているのかを聞き出すのが最低条件だ。下手したら俺たちが警察にスズラカミを突き出すことになるかもしれん。それでもやるか?」 

「俺はこの世界に生まれた以上、この社会のルールに従うつもりだ。やるぞナハヤ」

「仕方ないな」


 それから、ヤタとナハヤは幾つかの打ち合わせをした。ヤタとナハヤの席からスズラカミの動きはよく見える。スズラカミが一人になったタイミングで二人で挟むように話しかけようと思った。


 ヤタがスズラカミを見張って暫く経つと、スズラカミは席を立った。ヤタはナハヤにアイコンタクトを取る。


 壁際の所までスズラカミが移動したところで前からヤタ、後ろからナハヤが挟む形でスズラカミに問いただした。

「よお、スズラカミ。まぁ取り敢えず話でもどうだ」

「ヤタ、もう俺は以前の様な体たらくな人間じゃないんだ。ナハヤもだ。そこをどいてくれるか?」

「いや、頑張っていることは素晴らしいと思うんだ。そうじゃなくてな。スズラカミ、俺達は何というか…、ほら以前ダークエクスの話をお前にしただろ。あの時は興味無さそうに聞いていたと思うけどよ。まさかその後ダークエクスに興味持って、使っちまったんじゃないかと思ってんだよ」

 その問いに対してスズラカミは不気味な笑顔を浮かべた。

「俺がダークエクスを使っていたとしたらなんだ? 警察に突き出すのか?」

「ああ、俺はスズラカミをを助けたいんだ。困っていることがあったら俺らに相談するか、エクスのセラピーを受ければ良いだろ。ダークエクスは犯罪なんだ。リスクもある。後々後悔するこなるだろう。もし使っていたのなら正直に言って欲しい」

 その瞬間、スズラカミは突然ヤタの胸ぐらを掴み、問いかけた。

「お前には分からないだろうな。この感覚、この感情がよ。俺を助ける? 俺は助けられたんだよダークエクスに」

 ヤタとナハヤはあまりの突然のことに恐怖で動けなくなった。スズラカミの方を見ると、手首と首筋に青い筋の様なものが複数現れて始めた。ダークエクス利用者の身体に現れる後遺症だった。

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