第4章 残存の先へ 2

 -スズラカミは電気羊を停止して我に帰った。コイツはやばい。とんでもない客を引き当ててしまった。普通の人なら一旦逃げて、軍警察に通報するだろう。だかスズラカミは運が回ってきたと思った。ダークエクスに興味があり、そして今ダークエクス利用者が実際に目の前にいるのに、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「 バズといったな」

「なんだ」

「このことは誰にも言わない。スキャンした時あんたが偶然ダークエクス利用者だという記録が見えた」バズはこっちを向いて睨んだ。突然自分の知られたくない部分を見られたと思った。

「どういうことだ、記録を覗くのは最終手段じゃなかったのか?」

「その最終手段を使ったんだよ。あんたの家とIOTの接続が繋がらない場所はこの壁の隠し扉だった。が、そこまでは良かった。問題は壊れ方だ。内側が外から衝撃を受けたような壊れ方をしていた。だから少しどのような問題が生じたのか見てみようと思ってな」

「何かの間違えじゃないのか?」

「いや、俺のマイクロチップメンテナンスの腕は確かだ。毎回人の脳をのぞいているんだぞ」

 バズは内心かなり焦っていた。なんとかこの場を切り抜けなければならない。だが暴力はだめだ。俺は戦いが好きじゃない。できれば穏便に済ませたい。

「く、くそ…。見つかったのなら、仕方がねぇ…」そういってバズはポケットからお札を取り出した。

「30,000円だ。これはなんていうか、その…電車代だ。ほらこれで口を紡いで見逃してくれ」

「こんなものは俺に必要ない。それどころか俺は運がいい」

「は?どういうことだ?」

「いいか、よく聞け。俺は今から企業の仕事として、この扉とあんたのマイクロチップを直す。だがプライドベートとしてダークエクスのことを聞きたい」

 そういうとスズラカミは壁に向かって手を合わせた。だが何もならない。どうやらこの壁の向こうに行くドアは、本人の手のひらでしかダメなようだ。

「バズ、悪いがこれを開けてくれるか?話はそれからだ」

「ちっ。分かったよ」

 バズは壁の前に立ち手のひらを当てた。何もない壁の一部が凹み横にスライドして開いた。スズラカミは壁の側面の部品を取り除き、中を修理するためにドライバーを取り出した。スズラカミはネジをドライバーで回しながら聞いた。


「どうだった?」

「まず、ダークエクス自体が暴力や不安を煽るものの為、見てしまうと心身にストレスがかかる」

 バズはそういいながら椅子に座った。

「また、武器や暴力シーン見た為に、攻撃的な行動してが増える。後は…サイコパス的なシーンを見た為にサイコパス的な行動をすることもできる」とバズが続けていった。


 スズラカミはバズが喋っている間も、壁と扉の修理の作業の手を止めなかった。これはいつものことだった。

「なるほど、だがデメリットだけでもないんだろ?」とスズラカミはいった。

「ああ…ダークエクスは確かに危ないし、昔にあった禁止ドラックと一緒で依存性がある。だが使っている間は性欲を満たす以上の快感を得れるぞ。それと社会不安、精神不安もなくなる」

「ほう…」

「あんたが辛い気分の時はむしろ使うことで、浮かんで来るネガティブな思考を無くすことができて頭がスッキリするぞ。」

「もしバレたらどうなる?」

「勿論政府は許可してないからな、刑務所行きだろ」

「なるほどな。よく分かった。後1つだけ聞きたい。普段は何処でダークエクスを買っていたんだ?」

「第15地区東のエーテル通りだ」

「そこはお前が潰したろ。知ってる場所はそれだけか?」

「ええっと…。そういえば…、具体的な場所の名前までは分からないけど、第8地区にもあるって聞いたことがあるな」バズは一瞬でマイクロチップから記録映像を引き出して答えた。

「そうか、分かった」スズラカミはそう言って口を閉じた。


 スズラカミは4時間ほど作業をして扉の繋がりを修理した。その間バズはダークエクスを見ているのか何もいってこなかった。お陰でスズラカミもそこからは何も話さず作業に集中できた。


「もう接続は回復したぞ」

「うおー、早いなこれがお礼の30,000円だ」

「ありがとう、いい情報を聞けたよ」

「おう、使用する時はくれぐれも周りに軍警察がいないか確かめるんだな」





 軍警察の中でもマイクロチップ犯罪の特殊部隊に所属するZは、会議の場所までの埃一つ落ちていない綺麗通路を歩いていた。この特殊部隊チームは犯罪者に対する違法捜査、正当攻撃を政府の手によって許可されていた。Z自身も武器の扱いを訓練されていた。軍警察仲間と人型戦闘ロボット相手に格闘術の訓練をしていた。そんな時、軍警察の総監であるツシマから招集連絡が入った。


 スズラカミは虹彩認識で自動ドアが開き会議室の中に入った。第Ⅲ部隊のメンバーはZ以外全員既に揃っていた。


 弧を描くように並んだZ達の中央に座っているツシマはいった。

「現在までの情報を伝えよう。我々長年追っていたデスエクスについての情報が、とあるダークエクスの取り引き現場の中にあるという疑いが出てきた。」


 Zはいった。「やはりですか。だが、ダークエクス密売人も中々正体を表さない。捉えたと思ったら物の抜け殻だったということもよくあります。何処から当たればいいでしょうか?」


「取り敢えず全特殊部隊で手分けして探すことに決めた。第Ⅲ部隊は第一地区から第十地区までだ。この中で頼む。」


「はい、我々に任せてください。」


 ツシマは思い返した様にいった。

「むしろこの間の第15地区の時が上手く行きすぎたぐらいだった。軍警察の目的はデスエクスを回収することだ。だがそれは表向きでしかない。特殊部隊にはデスエクスを狙う連中を潰すことも頭に入れておいてくれ。」


「そういった連中の情報はあるのですか?」


「それがな、今全く姿を捉えられない。だが居ないとは言い切れん。リスクのあるものに飛びつく組織はどこの時代でもいる。Z。そいつらに悟られずに行動することを心がけよ。」


「了解致しました。」


 見えない敵に悟られないように仕事をこなす。今回は面白くなりそうだとZは思った。

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