第4章 残存の先へ 1

 次の日、スズラカミは自身が勤める企業ザ・ダミーからの命で、メンテナンス先であるバズの家に訪れていた。マンションというよりアパートに近い作りの建物で、その中央にあるこの部屋には見渡す限り窓から無い。昼なのに室内は薄暗い電気がついていた。床にビンや缶が散乱おり、スズラカミは踏まないように避けながら部屋に入っていった。


「ザ・ダミーのスズラカミです。依頼を受け、あなたの家とIOTとの繋がりの中で、何処が悪いのかを確かめる為に、電気羊の脳内をスキャンさせて貰います」

「信頼できるのか?」

「ええ…。1番信頼性が高いアメリカのセレビアーノが開発したものを使います」

「ならさっさとやってくれ」

 そういってバズは椅子に座り煙草を蒸した。バズは電気羊の説明を受けると早速こめかみにヘッドフォンのような物を付けさせられた。


「では電流を流します」

「ちょっと待て」

「なんでしょうか?」

「マイクロチップの記録を覗くのはよしてくれないかな。俺の頭の中には少し機密情報が入っているのだよ」

「記録を覗くのはあくまでも最終手段です。過去に何人もの人が電気羊を受けていますが98%の人がすぐに問題を検知しました。また未だにクレームは聞いたことがありません」

「ならいい」

そういってバズは目を瞑った。


 スズラカミは、電流を流し、発電機のモニターからその様子を見た。視認できない電子の流れを辿り部屋とマイクロチップの接続を見ていく。椅子、机、電球。一つ一つ部屋の中のIOTの物の接続を確認していく。すると部屋の中で、何もないはずの壁の方の接続がおかしいことが分かった。スズラカミは不審に思った。こういう時にはマイクロチップの中の記録を見て判断する。記録を覗く為、発電機から小型のイヤフォンを取り出して耳につけた。モニターのスイッチをいじってバズの記録から今問題のある壁の記録を探した。モニターにバズの記録が映った。-





-壁の前でバズともう一人の男が立って話をしていた。


「支払い日は昨日からもう1週間も過ぎているぞ。どうなってるんだ」

「なんだよ。落ち着けよ。密売人のくせに」バズがいった。昨日の昼と夜に聞いた密売人という言葉がここでも出てきた。


「金はきっちり払ってもらうぞ」密売人は声を大きくしていった。

「まあまあ、今持ってくるから、そっちの椅子に座って待っててくれ」

「金は電子じゃないのか?」

「あっ…ああ。俺はレトロコレクターなんだ。お金もバーチャルじゃなくて生の方がいいんだよ」

「仕方ねぇな」そういいながら密売人は椅子に座った。


 バズは何もない壁の前にたった。右手の手のひらをかざした。するとそれが鍵の役割を果たしていた様で、人が一人入れるサイズの壁が内側に凹みやがてスライドしていった。中には別の部屋があった。


 その時突然、後ろから首を掴まれた。


 密売人にグラップリングを仕掛けられたのだ。バズは咄嗟に肘を後ろにして相手に当てた。その衝撃で密売人の力が緩んだ。バズは体を回転させた。グラップリングから抜けた。


 2人は向き合って対峙する。お互いいつでも攻撃出来るように身構えていた。

「くそ。どういうつもりだ」バズはいった。

「忘れたか。俺はアウトサイダー側の人間だぞ。ダークエクスを利用して金を払わないお前は信用できない。ここで殺す」


「おいおい、今から払うっていってんだろ」

「お前は信用できない」もう一度そういって密売人は素手で殴りかかってきた。


 バズさっきの奇襲で完全にアドレナリンが出ていた。


 拳が飛んできた。だが、それを完全に見切った。


 体ごと右によける。


 カウンターで殴り返す。 


 密売人の右にヒットした。密売人はよろめいた。


 あと一発。


 と思った瞬間に左から小さな手のひらサイズのナイフが飛び出し出来た。密売人は後ろポケットに簡易ナイフを入れていたのだ。ナイフが脇腹を霞む。


 逆にバズがよろけた。


 密売人がすかさず突進して来る。バズと近い距離になると、密売人はタイミングよく右足を脚を払った。バズは倒れ込んだ。密売人が覆い被さりナイフを突き立てようとして来る。


 バズは密売人の腕を掴み切先が自分に刺さらないように防ぐ。


 冷や汗をかいていた。


 殺されるかもしれない恐怖がバズの力になった。


 バズは自動歩行技術を使い、先ほど自分が開けた扉とインターネット接続する。それが終わると、マイクロチップの機能を使い、筋肉のリミッターを外した。


 上に乗っかってナイフを今にも振り下ろそうとしていた密売人は、突然パワーアップしたバズに下からから持ち上げられた。


 バズはそのまま立ち上がった。その勢いで扉まで一気に爆発的な力で押し返した。


「うおおおおー…」


扉の入り口のスライドした部分まで密売人を吹き飛ばした。


 ゴン!


 鈍い音がした。密売人は吹き飛ばされた拍子に頭を入り口の角にぶつけたのだ。


「はあはあ…。くそ」


 バズは荒い息遣いをしながら額の汗を拭った。密売人の方を見る。しばらく警戒していたが起き上がる気配は無い。気絶したようだった。


「よし」


 手こずったが、攻撃してきた密売人を倒すことができた。バズはこの密売人を軍警察に通報することに決めた。それも奴の隠れ家と共に。


 その前に少し細工しておく必要がある。軍警察の奴らに俺がだとバレたら俺も一緒に捕まってしまう。だからこの密売人の隠れ家から俺の情報、痕跡を一切消す。


 通報はその後だ。-

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