第3章 デジャヴ 2
いつもの集合時間よりも早くガン✖️ナイトのバーチャル空間に入った。スズラカミは一人で射撃場にいた。深呼吸をしてから銃口を的に狙い澄ました。この空間が自分の精神的な安定だった。
今日知ったあの言葉なんだったっけ。最近一つの事を思い出すと一つの事を忘れるようになった気がする。今日会うチームメイトのメンバーも、もしかしたらそうなのだろうか。
ゲーム上では同じチームでもどんな仕事についているのか以前に何歳なのかも知らなかった。現実逃避としてただこのなんとなくゲームをやっていた。そんな時たまたまマッチングしたジャガーに俺のチームに来ないかと誘われたのが最初だった。そこから1年も同じ奴とやっていた。流石にたまに飽きてくることがある。人間はどんなに刺激的なことでも毎日同じことはできないようになっているのかも知れない。
後ろから足音がして我に返った。
「いつから居たんだ?」
「30分前だ」
ジャガーが銃をスズラカミのほうに向けてきた。
「なんだ?」
「いや…お前は俺が出会った中でも興味深い部類の人間だなって思ってよ」
「意味不明だな。俺は感情と行動があってない人間は苦手だぜ」
「そういうところだよ。ガク。言い回しといい、態度といいな。今の時代にお前みたいなやつは珍しい。そういう人間がシンプルに俺の好みなんだよ」
「いよいよ頭がおかしくなったか、ジャガー」
「ふっ…、後10分でメンバーが来る。それまで鍛えとけよ」
そう言って銃を収めた。
「ガク、ラストワンだ。だが気をつけて行けよ」戦闘から離脱したジャガーの声が飛ぶ。このマッチングに入って、チームのメンバーが何人か欠けながらも敵が残り一人の状態まで来ていた。
スズラカミが走るたびに部屋の中の埃や砂が巻き上がって来て視界が悪くなっている。
「相手は何発か貰ってる状態だ。今のうちに詰めよう」ワタリから連絡が入る。上の階から敵の足音が聞こえる。
「準備はいいか?」ネムがいった。
「ああ、すでに配置に着いている」 スズラカミは返事を返した。
隣の建物にいたネムは敵が潜伏している近くにある電球のIOTと接続し電気をショートさせた。これがマイクロハックだ。
「よし突入だ」
ジャガーからの合図が出た。
階段を駆け上がるスズラカミ。ドアを開ける瞬間に自分の近くにある全てのIOTとアクセスする。
マイクロチップは神経とも連動しており体内の筋肉のリミッターを外す。火事場の馬鹿力を科学的に応用したものだった。この自動歩行技術によって目的のIOTの場所まで瞬間的に体が加速する。ドアを蹴り開けて敵のいる部屋に突入した。目線を左、正面、右にやる。だが部屋に敵の姿が見当たらない。その時、蹴り上げたドアの陰から銃口が飛び出して来た。銃弾が放たれ間一髪、目の前を掠めた。
敵はあらかじめドアが室内に対して内開きなのを利用してそこに隠れていたのだ。だがそれも見つかれば最後。スズラカミは地面を蹴り上げ加速する。目に追えない速さで敵に近づき銃を掴んだ。そのまま奪って放り投げた。銃が地面に叩きつけられる。相手は丸腰になった。
「くそ」
銃を奪われた敵はスズラカミに掴みかかる。だが格闘技のレベルが違った。スズラカミはすぐに相手を投げて拘束した。
「終了だ、帰るぞ」
スズラカミの周囲が青白い光に包まれた。
『おめでとうございます。全ての試合が終了しました。帰還いたします。』AIの声が脳内から聞こえて来た。視界が完全に青白い光に包まれ、待機場に転送される。次第に光が薄く
なり待機場所の緑色の芝生が見えて来た。風が肌を打つ。
「やったー」
死んでいた皆も青白い光に運ばれて、観戦ルームから帰ってきていた。
「さすがだなガク」とジャガー。
「ナイス。センスあるな」とレイ。仲間達が褒めてくれる。
「ちょっとごめん俺一回トイレ行きたいのだけど休憩していいかな?」とシャチ
「おっ賛成だな。じゃあ、ちょっと15分ぐらい休むか」リーダーのジャガーが銃をしまって座り込んだ。
「さんせーい」思い思い行動を取り始める。
「あっ、じゃあ射撃場行ってくるわ」とネムがいった。
「やるじゃねえかガク。お前も立派な戦士だな。」ジャガーがいった。スズラカミはジャガーの隣に腰を下ろした。
「一応現実世界では格闘技をかじったことがあったからな。あれぐらいは当然だ」
「ガクはチームの中で一番うまいと思うんだよな。これからも頼むぜ」
「これからも、か」
「なんだよ。気に食わないことでもあるのか? 俺たちはチームなんだぜ。悩みを聞いてやるのはわけねえよ」
「現代じゃ悩みを抱えている奴の方が少ないだろ。それにほとんどエクスで解決できる」
「じゃあいったい何が?」
「記憶の発作だ。突然、何故か昔の思い出すようになってきた。俺もいよいよ脳の劣化が始まっていると思ってな」
「現代人では多いだろ。そういう奴」
「まあまあ、あんまり気にするなよ。それに現実逃避したかったらダークエクスもあるだろ。あれ使っちゃいなよ。記憶も飛ぶぐらい、気持ちいいらしいぜ」待機場に残ってスズラカミとジャガーの話を聞いていたレイが割り込んできた。
「ダークエクスだと?」
その言葉は今日の昼から引っかかっていた言葉だった。マイクロチップの記録を確認する。ダークエクスを検索ワードにかける。それは今日の昼にスズラカミが勤める企業の同僚も発言していた。
「おい、レイそう言う言葉あまり使うなよ。軍警察はネット世界も監視しているぞ」ジャガーは間に入って宥めた。
これは半分脅しで半分本当だった。だが、スズラカミはこの事を真実と受け取ったのか意味ありげな反応を見せた。
「やっぱり政府機関の連中は一般の人に何か隠しているのか? そうでないとここまで監視はしないはずだ。現に昔インターネットはかなり自由だったと聞いている」
「所詮は都市伝説レベルの話だけどな。だがダークエクスに関してだけ言えば都市伝説以上だ。実際に使って気持ちいい思いをしている人は幾らでいるぜ」レイがいった。
「…。いいかスズラカミ。今のレイの話は聞き流しといていいぞ。世の中には知らない方が幸せなこともある」
知らない方が幸せだと?
スズラカミには聞き捨てならない言葉だった。どうして自分には教えてくれないのか。世の中の表にダークエクスの情報が出てくることは今の政府がある限りないだろう。なら人から人に情報を得るしかない。アングラな
「実は最近俺の企業でダークエクスについての噂が出ていてな。だが知っての通り一般のネットワークではダークエクスについての閲覧は制限されている。言いたくないなら構わないが噂でもいい。知ってる事が教えてくれ。」
「仕方ねぇな…。ただあれは闇の企業やテロ組織が関わっている。その中に、もしかしたらあるかも知れねぇよな。お前は求めてるんだろ?これを埋め込むことになった真実ってやつを」自分の頭を指で刺しながらジャガーはそう言ってニヤリと笑った。今までに見たことがないような冷徹な笑みを浮かべたようにスズラカミには見えた。
「よくわかってるな」
「ふっ、実はな。俺は今まで仕事柄そういう奴との関わりが多いんだよ。だがそういうやつでまともな人生を送ってきたやつはあまり聞かないな。そうだ、今度ダークエクスを使ったらどうなるのかって聞いてきてやろうか?」そういったジャガーの表情からは本当か嘘かの区別が付かなかった。
「ジャガーは普段からダークエクスと関わってんのかよ。どんな仕事だよ。ほんと。」レイがいった。
「そうだよな、ダークエクスってのはいわゆるアウトサイダーな奴らが密売しているってやつでしょう」ワタリがスズラカミの近くにやってきて腰を下ろした。
「やっぱり非売品か」とスズラカミ。
「非売品だが買えないわけじゃねぇ。それがダークエクスの魅力でもある。自分で言うのもなんだが俺は噂に通じていてな。売ってる場所も今度調べといてやるよ」とジャガーがいった。
「なんかあやしー。いや…、嘘だなこりゃ。今時マイクロチップで場所検索ができるんだぜ。本当に売ってるところだったらすぐ摘発されるだろ」レイがいった。
「信じるかはお前ら次第だ。密売人の連中は上手く
「記録に残しておく」
スズラカミはその場ではそういったものの、ゲームが終わり解散した後も、しばらくは記録を見返していた。意外にもチームメイトはダークエクスに関して詳しかった。スズラカミは自分は運がいい人間だと思った。明日はまたメンテナンスに向かわなければいけない。そう思って遅い就寝についた。
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