第199話 二人目
アキヒサは指を立てたキャシーに諭すように告げる。
「キャシーちゃんのその指はロウソクです。
ロウソクには火が灯っています。
想像してごらんよ、ろうそくの火って案外頼りないよね。
けどその指がロウソクになったら、便利だと思わない?」
アキヒサの話を聞きながら、キャシーはジトリとした目で自分の指を睨む。
「……夢のような話ね、もしこの指が本当にロウソクになるんだったら、あのボロくて寒い孤児院にいた頃にできてほしかった」
そしてそう呟いた、その時。
ボウッ!
「え!?」
本当に、キャシーの指先に火が灯った。
「ひゃっ!?」
自分の指先に火がついたことに驚いたキャシーが手を振った瞬間、火は消えてしまう。
けれど確かに魔術の火がついたのだ。
――さすが先天性のスキル所持者だ、イメージがあれば魔術が発動するのか。
アキヒサは自分でやらせておきながら、感心してしまった。
実はこの魔術スキル、ブリュネやニールなどもアキヒサの真似をして試してみたのだが、全くできなかったのだ。
もしかして魔術スキルは後発で身に付くものではなく、先天性のみで得られるスキルという可能性もある。
それはともあれ、魔術が成功したキャシーはもちろん、他の二人もあっけにとられていた。
「なに、今のはなに!?」
自分の指先を呆然と見ているキャシーに、アキヒサはニコリと笑いかけた。
「『魔術』っていうスキルなんだ。
三人では、キャシーちゃんにだけに出来る力だよ」
「魔術、スキル?」
目を丸くしながら首を捻るキャシーに、ダンがはしゃいだようにバンバンと背中を叩いてきた。
「すごい、キャシー、スキルすごい!」
「痛いってばダン。
でも、スキル、私にスキル……!」
大声で「すごい」を繰り返すダンに、キャシーは叩く手の威力にしかめ面をしながらも喜ぶ。
けれどそんなキャシーに、ジムが詰め寄る。
「キャシーお前、スキルなんて買ったことないだろう!?」
「当たり前じゃないの、どこにそんなお金があるっていうのよ!」
ジムの責めるような口調に、キャシーもムッとして言い返す。
「まあまあ、そんな喧嘩をすることじゃあないよ。
キャシーちゃんはスキルを買ったわけじゃあない」
アキヒサは二人を一旦引き離して、そう取り成す。
「そのあたりのことは、帰ってギルドの偉い人から教えてもらえると思うよ。
ジムとダンにだって、スキルがあるかもしれないぞ?」
アキヒサは自身の『鑑定』スキルを明かすわけにはいかないので、そうぼやかしておく。
「俺にも……?」
「すごい、僕もスキルがあるの!?」
ごくりと息を呑むジムの一方で、ダンは素直に嬉しがっている。
――うん、反応も三人三様だなぁ。
アキヒサはなんだか微笑ましくなってくるのだけれど、ちゃんと注意もしておかなければならない。
「ただキャシーちゃん、練習する時は火の用心だよ?
ロウソクの火だって、始末を忘れていたら大火事になるだろう?
キャシーちゃんは放火魔って呼ばれたい?」
「嫌、そんなの!」
アキヒサが述べた注意事項に、キャシーがふるふると首を横に降る。
「うん、火が怖いって、ちゃんとわかっていれば大丈夫。
それにキャシーちゃんは、ちゃんと周りの状況を考えられる子だ。
ジムくんとダンくんの邪魔にならないように、ずっと気を配っているだろう?」
「……!」
「そうなの?」
ジムが驚いた顔をして、ダンが不思議そうに首を傾げる。
どうやらちょろちょろと立ち位置を細かく変えているキャシーのことに、二人は気付いていなかったらしい。
キャシーの方は、これを暴露されて恥ずかしいようで、少し頬を赤くしている。
「アタシは力がないし、足も速くないから。
せめてお荷物だって思われないようにしないと」
キャシーの本音に、二人はなにも言えないでいた。
――いるんだよなぁ、こういう考え過ぎちゃう子って。
こういう気持ちのすれ違いは、後で三人だけで話し合ってもらうことにして。
アキヒサはこの後、キャシーに水の魔術も試させてみた。
手のひらにほんの少しだけれども、水を生み出すことに成功する。
「おめでとう!
これでキャシーちゃんはこの国で、僕の次の二人目の魔術師だ」
「魔術師、アタシって魔術師なんだ!」
目をキラキラさせたキャシーは、アキヒサに笑顔を見せたのだった。
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