第198話 ピクニックタイム

全員揃ったところで、元沼での薬草採取だ。

 レイと三人組でも背の低いキャシーでは、水深が深くて採取が難しいので、アキヒサとジム、ダンで水へ入る。

 レイとキャシーは、採取した薬草を数えてまとめる係である。

 シロは……応援する係としておこう。


「そうそう、そのあたりの足元にある水草だよ」

「これか」

「……これ?」


アキヒサが指示したあたりを手探りしてもらい、水草の薬草を採取していく。

 泥にまみれていたせいで状態が悪いが、蛙もいなくなったのでいずれ復活するだろう。

 そのためにも、採り過ぎないように注意しておく。

 そして三人にもこの点を忠告する。


「薬草は畑と一緒、種がないと増えないんだから。

 全部取らないで種が落ちる分だけの株を残しておかないと、次の季節に困るのは自分だ」

「確かに孤児院の畑でも、院長先生は必ず来年の植え付け用の種になる実を残していました」


アキヒサの言葉を聞いて、ジムがそんなことを思い出して話す。


「お腹を空かせた子が食べちゃうと、ものすごく怒られるのよね」

「先生、怒ると怖い」


これにキャシーがそう付け加えて「ふふっ」と笑い、ダンが俯く。

 どうやらダンは怒られたことがあるらしい。


 ――どうやらその孤児院で、一応ちゃんとした育て方をされたようだな。


 孤児院での生活を思い出したくないというわけでもないらしい三人に、アキヒサはホッとする。



こうやって薬草採取をした後。

 綺麗になった元沼の前で、かなり遅めのピクニックとなった。

 地面に敷物を敷いて、その上にみんなで円になって座ると、真ん中にパンケーキなどを並べていく。


「ほらレイ、ホットミルク。

 ちゃんと持つんだぞ?」

「ん!」


レイにホットミルクを渡し、ついでに三人組にも同じようにホットミルクを渡していく。


「……いいんですか?」


ジムが戸惑うというより、警戒するような顔でホットミルクを見つめている。

 「こんなうまい話は世の中にはない」とデカデカと顔に書いてあるようで、アキヒサは内心で苦笑する。

 きっとこれまで少なからず騙された経験があるのだろう。


「お金を払えなんて言わないよ。

 これでも俺は稼いでいるからね。

 いいからコップを持って、このパンケーキも食べな。

 成長期なんだから、食べられる時に食べる!」

「ミルク、濃くて美味しいよ、飲もうよ!」


アキヒサがそう促す最中に、ダンはすでにホットミルクに口をつけて、口元を白くしている。


「……ダンが言うなら」


するとジムはちらりとダンを見てそう呟き、ホットミルクを飲む。

 しかし一人、キャシーだけがホットミルクをじっと見つめるだけで、ピクリとも動かない。


「ミルクが苦手だった?

 アポルジュースの方がいいかな?」


アキヒサがキャシーにそう声をかけると。


「あなたの秘密技っていうの、ズルいと思う」


キャシーがふいにそう告げた。


「キャシー、そんな言い方はないだろう」


ジムがたしなめるが、しかしキャシーは言葉が止められない。


「だってあれだと、体力とか腕力がいらなそうだもの。

 アタシは足だって遅いし非力だしナイフだってうまく使えないから、正直足手まといだし」


そう叫んだキャシーはミルクのカップを両手で握りしめて、ちょっと目に涙をにじませている。


「キャシー、足手まといだなんてことはない。

 三人で頑張ろうって約束したじゃあないか」

「なんでも出来るジムやダンにアタシの気持ちなんかわかりっこない、アタシだってそういう便利な力が欲しい! なのにあなただけズルいじゃない!」


ジムが宥めようとするが、キャシーは言い返す。

 ダンは喧嘩を始めたオロオロと二人を交互に見るばかりだ。

 アキヒサはこの様子を見ていて、キャシーの言葉の真意が単なる嫉妬ではないと思わされる。


 ――なるほど、この子の口が悪いのは、自信の無さや悔しさの裏返しだったのか。


 馬鹿にされる前に攻撃するというのは、そう珍しい性格ではない。

 けれど悔しさは向上心と表裏一体なので、「どうせ自分なんか」という思考に陥るよりもずっといいと、アキヒサは思うのだ。


「キャシーちゃん」


アキヒサが呼びかけると、むくれ顔で「なに?」と返事をする。


「指をこうして立ててごらん」


アキヒサが人差し指を立ててみせる。


「なによ……これでいいの?」


キャシーは言われた通りに真似をするのだから、根は素直なのだろう。

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