第196話 蛙が出た
――う~ん、どのあたりに薬草があるんだろう?
アキヒサが沼を覗き込もうとすると。
「あまり近付かないでください!」
「アイツらが出てきちゃう!」
ジムとキャシーが口々にそう言ってきた、次の瞬間。
ザバァン!
沼から飛び出てきたのは、なかなか大きな蛙であった。
レイと同じくらいの背丈なのだから、アキヒサとしてもさすがに気持ち悪い。
「ゲロロ」
「ゲコゲコ」
大きな舌をベロンベロンとしながらこちらをねめつけてくる蛙を、アキヒサはとりあえず鑑定してみる。
~~~
マッドトード
泥の中を好む蛙型魔物で、毒を吐いて攻撃してくる。
清水を好みの環境に変えてしまうので、大量繁殖されると環境汚染の原因となる。
泥臭いので食用に向かない。
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なるほど、この沼が臭いのはこのマッドトードのせいである可能性がある。
けれど――
「これは、レイ向きの獲物じゃあないなぁ」
「う?」
アキヒサが苦笑するのに、レイが「そうなの?」という顔で見上げてくる。
蛙の毒吐き攻撃を食らうようなレイではないだろうが、殴っても蹴っても、もれなくレイがグロいものを被りそうである。
当人はそれもなんとも思わないかもしれないが、アキヒサとしては自ら汚れに行くのは止めさせたい。
するとその時、沼の向こうに鹿っぽい姿が見えたのに、「む!」とレイが反応する。
ちょうどいいので、レイにはあちらを担当してもらおう。
「レイ、あっちを狩ってきなよ」
「むん!」
アキヒサが促すのと同時に、レイがその鹿っぽいのに特攻していく。
これに子どもたちの中から、ダンが「あ」という顔になり、アキヒサをちらりと見る。
ダンはどうやらレイの戦い方が気になるようであるし、「行っておいで」とこちらにも促す。
――まあ、レイもダンに気付くだろうし、危ないことはしないかな。
なにしろレイはこの依頼は自分の依頼だと、張り切っているのだから。
一方で、焦っているのが残った二人だ。
「あっ!」
「ちょっとダン!」
ジムとキャシーが慌てるのは、ダンが三人の中で唯一それなりに戦えるからだろう。
攻撃手段を失うようなものだから、怖くなったのだろう。
「あの子にダンまでいなくなったら……!」
キャシーが青い顔をして文句を言ってくる。
アキヒサたちはレイが攻撃担当だと思っているのだろう。
確かに特攻担当はレイかもしれないが、ここでアキヒサもいい所を見せておきたいところだ。
「「ゲロゲロ!」」
蛙たちがアキヒサたちへ襲い掛かろうと、ピョーンと大きく跳ぶ。
さすがこの大きさの蛙は、跳躍力もなかなかだ。
「きゃあ~!」
キャシーが悲鳴を上げ、ジムが感心にもキャシーを守ろうというのか、ナイフを持って彼女の前に立つ。
「おぅい、仮にも冒険者なんだし、大声は獲物を刺激するから止めた方がいいぞぉ」
アキヒサがキャシーにそう注意する。
アキヒサ自身、この世界に来た当初は魔物が怖かったが、レイの無双で大量の魔物を見て慣れたとも言う。
それに、どうせ蛙はアキヒサたちを襲えない。
バチィッ!
蛙たちはなにかに弾かれるようにして、跳ね返っていく。
アキヒサは引率ということをちゃんと考えていて、森に入る前から結界を張っていたのである。
「平気だから見てなよ、『氷の矢』」
アキヒサは蛙を氷の矢で串刺しにしていく。
火や風で攻撃すると散らかりそうだと考えて、氷にしたのである。
ブリュネには魔術のことはできるだけ教えるなと言われているが、今回はキャシーの実地教育ということにしてもらおう。
――魔術を見せると、キャシーも魔術に目覚めるかもしれないし。
アキヒサのそんな思惑を知らないジムとキャシーは、驚愕の表情である.。
「これ、俺の秘密技ね」
そんな二人に、アキヒサは微笑んだ。
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