第166話 やっとです
No.1は「もっと偉い存在」という言葉に、カッと目を見開く。
「神よりも偉い存在など、いない!」
駄々をこねるようにわめくNo.1だが、後続の生体兵器たちのことは破壊処分後のことなので知らなくても、一人だけ自身よりも偉い相手を知っているはず。
それは生体兵器を造り出した「マスター」だ。
――大人に向かって「僕は偉いんだぞ!」とか、子どもって言っちゃうんだよなぁ。
アキヒサは施設にいたチビたちのことを思い出しつつ、No.1に言い返す。
「いるぞ!
神様なんて新しくいくらでも生まれるものなんだからな!
それで言えば、アンタはずいぶん古臭くて時代遅れだな!」
「古臭い……!?」
No.1は言われたことがかなりショックだったのか、身体をウネウネとよじらせている。
その様はさらにグロテスクなのだが、アキヒサにその奥に光るものが微かに見えた。
それがなんなのか、リュウがすぐに気付く。
「鬼神よ、その光る石を割れ!
それが基幹部の動力だ!」
そうリュウが叫んだ、一瞬後。
「……!」
レイが匍匐前進体勢から即座に身を起こし、No.1へとびかかった。
「なにをする!?」
アキヒサとの会話に動揺していたNo.1は、レイへの撃退行動に入るのがわずかに遅れる。
そのわずかな間が、No.1にとって命とりであった。
レイの小さな拳が、周りにまとわりつく内臓を巻き込んでその光る石を目指す。
その拳が到達すると。
パリィン!
その光る石は軽い音を立てて、あっけなく粉々に割れた。
「われ……ハ、カミ……」
すると、No.1は動きが鈍くなり、声を絞り出していたが。
ドサッ!
やがて動かなくなると、床に落ちた。
「……?」
レイが落ちたNo.1を首を傾げて見ている。
急に動かなくなったのが不思議なのだろうか?
――いや、本当にもう動かないのか?
アキヒサは多少怪しみ、しばらく待ってみたが、No.1が再び動き出すことはない。
念には念を入れて鑑定する。
~~~
生体兵器No.1のスクラップ品。
動力石が使用不可能状態であるため、活動維持できなくなっている。
~~~
どうやら、本当にもう動かないようだ。
そしてあの光る石は動力石というものらしい。
人間で言うところの心臓のようなものだろうか?
その動力石を、リュウが動かなくなったNo.1の中から拾い集めていた。
「レイ、がんばったな! ちょっと汚れたみたいだし、綺麗にしてやるからこっちにおいで」
アキヒサが手招きすると、レイがトテトテと駆けてきた。
匍匐前進で床の汚れをお腹につけているし、あのNo.1を攻撃した時についた体液などで、かなり汚れていて可哀想だ。
「『クリーン』」
魔術をかけると、レイは元通りに身綺麗になった。
「……アン?」
外の様子が変わったことがわかったのか、シロが「終わったの?」と言いたそうな様子でアキヒサの懐から出てきた。
そして好奇心がうずいたのか、動かなくなったNo.1へと寄っていくが、一メートルの距離よりも近付かない。
相手が動かなくても慎重なシロである。
そのシロに付き合ってか、レイもシロの隣に行くと、じっと眺める態勢だ。
「レイ、また汚れるからさわったらダメだぞ~」
「ん」
アキヒサはレイがツンツンしないようにと声をかけると、レイが素直に頷く。
レイには珍しく手こずらされたNo.1への怒りや憎しみなどは感じられず、戦った敵の後のことはどうでもいいというのは相変わらずらしく、ドライな幼児だ。
そんな幼児組の一方で、リュウは割れた動力石を拾い集めている。
「このように大きな動力石が残されていたとは、なんという失態か」
リュウは苦々しい表情でそう言った。
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