第165話 大きな子ども
――これって……。
アキヒサは、このNo.1の行動パターンに覚えがあった。
「子どもだ、コイツは」
アキヒサはそう小さく零す。
「なにを言うか、マスターは成人の設定で造ったはずだぞ」
リュウが横から訂正してくるが、その指摘はアキヒサの今の実感とは大きく乖離している。
「いや、身体の作りとか言葉遣いとか、そうした基本的なことは確かに大人なんだろうけどさ。
根本の思考回路が子どもなんだよ」
リュウにそう語ったアキヒサには、No.1の受け答えが、子ども集団にいるガキ大将と話しているように感じてしまったのだ。
子ども、特に幼い子どもの集団では、成長度合いも個人それぞれバラバラで、器用さだってたいして発達していない。
そうなると上下関係を決めるのは、純粋な腕っぷしの強さになりがちである。
身体が大きくて喧嘩になると強いという、それだけでチヤホヤされてしまうのが、子どもの集団というものだ。
このNo.1は、そんなガキ大将が偶然ドラゴンの身体と誰にでも勝てる万能スキルを手に入れたら、こうなるかもしれない、ということを体現している気がする。
マスターは初めて生体兵器を造った時、そのあたりの塩梅をわかっていなかったのかもしれない。
身体を大人に仕上げれば、思考も大人になるだろうと思ったら、そうではなかったという結果が、今目の前にあるのかもしれない。
「……ふむ?」
アキヒサの言い分に、リュウが首を傾げる。
どうやら、いまいちわからないようだ。
この、マスターがNo.1の次に造ったリュウが、ちょっと普通の人間とはズレているものの、それなりにまともなのは、そのあたりのしくじりを修正したからなのか?
そしてNo.1のスクラップで密かに再生させた輩は、No.1のこの身体と中身のミスマッチを修正しなかったようだ。
子どもが「神様ごっこ」遊びを大人にお膳立てされてのめりこんだら、「やりすぎだ!」と叱られてボコボコにされてしまった。
No.1目線からすると、そんなところだろうか? そう考えると、このNo.1もなんだか可哀想な奴かもしれない。
そんな風に、少々同情的になっていると。
――うん?
視界の片隅でなにかがモゾモゾしているのが見えた。
なにかと思って横目でちらりと見ると、レイが匍匐前進みたいに地面をよじよじしているではないか。
アキヒサが会話してNo.1の意識がそちらに行っている間に、レイは静かに近付いていたのだ。
No.1は目玉が丸出しの姿だが、その目の機能はあまり良くはないのか、このレイの匍匐前進行動に気付いていない様子である。
その己に課せられた任務をなんとしても遂行しようとするレイに、アキヒサは胸が熱くなる。
真面目というか、まるで暗殺者みたいというか。
ともあれ、アキヒサもレイの援護をしなければならないだろう。
アキヒサは黙り込んだNo.1が匍匐前進中のレイに気付かないようにと、再び話しかけた。
「そんな力任せで強引なことをしていたら、いずれ皆に嫌われて後でめちゃめちゃ怒られるんだからな!」
「なにを……!」
この言葉に気分を悪くしたらしいNo.1が、身体をブクリと膨らませる。
それがグロテスクで、アキヒサは「うっ」と目を逸らす。
「神は全てを許されるものだ!」
強く反論するNo.1に、アキヒサは目を逸らしたまま「それは違うぞ」と告げる。
「神様だってもっと偉い存在に怒られて、めっちゃめちゃにされちゃうんだ!」
日本神話だってギリシャ神話だって他色々な神話だって、神様には駄目な神様がいて、オイタをしてしまってキツいお仕置きをされているのだ。
そしてNo.1にとっての「新しい神」とは、No.1よりも新しい生体兵器だという、このリュウでありレイであろう。
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