第164話 世界をくれるらしいです

「さあ、我の手を取れ、世界を授けよう」


誘ってくるNo.1だけれども、リュウは相手をせずにスルーの態度だし、レイはそもそもなにを言っているのかわからずに「?」という顔でアキヒサを見上げてくる。

 言葉での懐柔も、相手が悪かったようだ。

 しかし、アキヒサはNo.1の話を聞いてみることにした。


「お前のもとへ下ったら、なにかいい事でもあるのか?」


そう尋ねるアキヒサに、リュウが「おい」と呼びかける。


「相手にすることはないぞ、無駄な労力だ」


忠告してくるリュウは、アキヒサがNo.1にほだされようとしているとでも思ったのか、渋い顔をしていた。

 しかし、こちらだってそんな理由で会話に応じたわけではない。


「いや、この手の輩は構ってやらないと逆ギレすることがあるし、無視も危ないかと思ってだな」


「そうなのか?」


アキヒサが理由を話すと、リュウが不思議そうにする。


「そんなものなの。

 『構ってちゃん』キャラなヤツって、案外扱いが繊細なんだぞ?」


「ふむ、なるほど」


ひそひそ声で告げるアキヒサに、リュウがわかったようなわからないようなという様子で相槌を打つ。

 まあ、リュウは自分のやりたいことをやりたいようにやるタイプのようなので、仮に近くに「構ってちゃん」がいてもガン無視していたことだろう。

 レイだってたぶん同様だと思う。


「お前、お前だ」


 ともあれ、No.1は自分の呼びかけに応えたアキヒサを懐柔しやすい人間だと判断したのだろう、あからさまにアキヒサの目を合わせてきた。


「うおっ!?」


しかしアキヒサとしては、あのむき出しの目にギョロリと見られても、不気味なだけで嬉しくなんてない。


 ――コイツがこんな風に隠されているのも、見た目の不気味さが理由だろうな。


 これがもしリュウのような完全なドラゴンの身体を持っていたり、レイのような人型だったならば、金ピカの者たちだってNo.1をもっと表に出して、宣伝に使っただろうに。

 それが幸か不幸かは置いておくとして、No.1が上手く利用されているということは確かだろう。

 本人は自分が主導権を握っているつもりで、実はただの道具となり果てている。

 このように微かな同情心を覚えるアキヒサに、No.1が告げる。


「言った通りだ、世界を授けよう」


同じ言葉を繰り返すNo.1に、アキヒサは問う。


「世界を授けるって、具体的になにをくれるの?」


「世界を支配する力だ」


「そこを、もっと具体的に」


「世界を支配する力を授けるのだ」


アキヒサが尋ねても、しかしNo.1は同じことを繰り返すしかしない。


「さあ、どんな力を欲するか?」


No.1が逆にアキヒサに問うてくる。


「こっちが『欲しい』って言った力に近いスキルをくれるのか?」


「そうだ」


アキヒサが確認すると、No.1がこれを肯定する。

 やはり、金ピカたちのスキル商売は、No.1が行っていたことなのだ。

 それがわかったところで、アキヒサはさらに追及する。


「でもさぁ、本当に世界を貰えるのか?

 世界を支配って、それって武力?

 それとも思想?

 それとも芸術とかですんごい賞を取って世界を股にかける活躍をする的なこと?」


これを聞いたNo.1が、ギョロリと目玉を回した。

 それが「ちょっと困った」という様子にも見えて、これまで尋ねられたことがなかった内容なのかもしれない。


「世界は、世界だ」


戸惑いを隠すように断言したNo.1に、だがアキヒサはさらに言う。


「だから、その『世界』っていう言葉が曖昧なんだってば。

 人によって『世界』が意味することって違うだろう?」


冒険したい人にとっての世界であれば、まだ見たことのない未知の場所だろうし、それこそ支配者にとっての世界とは、まだ自分が支配できていない土地のことだろう。

 文化的に成功したい人の世界なら、土地ではなくそこに住まう人々を指す。


「で、どれのことかな?」


困っている、明らかにNo.1が困っている。


「どれ……?

 どんなものでも、強者」


「まさか『喧嘩に一番強ければ世界がとれる』なぁんて、子どもみたいなことを言わないよな?」


アキヒサはNo.1の言葉に被せるようにして指摘する。


「……」


どうやらそう言うつもりだったらしいNo.1が、とうとう沈黙した。

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