第163話 神らしいです

アキヒサたちが作戦を練り直そうと、固まってゴソゴソとやっていると。


「我は神、従うものは救われる」


No.1が語りかけてくる。

 抵抗を止めて従えとでも言いたいらしい。


「む!」


レイはこの言い方が癇に障ったのか、無理矢理にでも動いて攻撃しようとするが。


 ヴゥン


 またもやあの音がして、レイとリュウが床に両手をついた。

 『支配』スキルが強まったのか、二人とも額に汗をかいていて、相当に苦しいらしい。

 『支配』スキルはアキヒサの結界でも防げないので、これはまさに防御不可能な攻撃だろう。

 No.1を退治する過程で世界が一度滅んだというリュウの話も、こうなると真実味がある。


 ――あれ、待てよ?


 だがここで、アキヒサは違和感に気付く。


「僕、なんともないんだけど、なんでだ?」


そう、『支配』のスキルが生物に作用するのなら、アキヒサにもなんらかの影響があるものだろう。

 しかしアキヒサは今のところあの耳障りな音を聞いても、身体に不調のようなものを感じていない。

 アキヒサの発言に、リュウが目を見開く。


「そうなのか?

 だが確かに、お前は先程から他人事のように語っていたな。

 となると……」


リュウもこの事実に気付いていなかったようで、ここから彼の思考が加速していく。


「では『支配』は肉体ではなく、魂に作用しているのか?

 お前の肉体は我々同様のものだが、魂はこの地のものではないからな。

 いや、しかしそれだと……」


リュウが考察を独り言でぶつぶつとしはじめる。

 アキヒサはどうやらうっかり研究者スイッチを入れてしまったらしい。

 しかし現在、絶賛戦闘中である。


「リュウさん、そういう深く考えるのは後でしよう!?」


アキヒサはリュウの意識を現実に引き戻そうと、肩をガクガクと揺さぶる。

 いつもであればここでレイの痛すぎるツッコミが入るのかもしれないが、そのレイもダウン中なので、アキヒサがやるしかない。


「む、それもそうか」


案外すんなりと思考を中断してくれたリュウは、これからどうするかを考え始める。

 こんな話し合いをしている間も『支配』の効力は続いているようで、レイもリュウも動けないままだが、一方でNo.1からの光線攻撃は来ない。

 光線攻撃をしたせいでレイに逃げられたと悟ったのだろう。

 しかしそれは、リュウの「複数同時作業ができない」という考察が正しいことを証明している。

 それに『支配』というスキル名から考えると、本来ならば相手に言う事を聞かせる力だろうが、レイもリュウも今のところ弱体化させられているだけで、No.1の言う事を聞いてしまう現象は起きていない。

 おそらくはNo.1と同じ生体兵器同士ということで、完全な『支配』には至らないのだろう。

 そんなわけで、レイが攻撃できない代わりにNo.1からも攻撃が来ないという、膠着状態に陥ってしまい、この場に奇妙な無音が流れる。

 三人の中で唯一『支配』の効かないアキヒサが攻撃するという手もあるのだが、そもそもアキヒサが使う程度の魔術が、あんなナリでも生体兵器である相手に効くとも思えない。

 第一レイではないと破壊できないのだ。


 ――う~ん、なんかいい方法がないかなぁ?


 アキヒサは「う~ん」となんとか知恵をひねり出そうと唸る。

 だがこの無音を先に破ってきたのは、No.1の方だった。


「我は神、従うものは救われる」


アキヒサたちに再び告げたNo.1は、さらに続ける。


「我は神、従うならば全てを許そう。

 我のもとへ下るのだ」


全てを許すとは、まさに神のような言い方だ。

 No.1は攻略できない相手と知って、今度は言葉で篭絡しにきたのだろうか?


 ――いや、もしかして本当にしばらく神をやっていたのか?


 なにしろここは、グランデ神聖教会の地下なのだ。

 神として教会が利用した、いや、むしろこの場所の存在を見つけてしまった教会が、本当に神との出会いだと思ってしまったのかもしれない。

 レイやリュウをこうまでしてしまう『支配』スキルだ、ただの人間の思考を操ることなんてチョロいものだろう。

 つまり、No.1はかつて己が神だった世界を、再び手に入れようとしていたのだ。


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