第162話 さらなる事実

No.1は胴体が木っ端みじんになってしまった。

 ここまでなればすぐに元通りにはならないようで、ほとんど変化はない。

 もしかすると再生能力が微かに残っているのかもしれないが、こうやって時間稼ぎをして後ほど改めて念入りにトドメを刺して回ればいい話である。

 残るは頭部となった、その時。


「ワ……、……ヲ……ナリ」


なにか、レイの破壊音以外の音が聞こえた。


「まさか……!?」


リュウもその音に気付いたようで、驚愕の表情になる。

 そんなこちらにまるで誇示するように、No.1の目がギョロリと動く。


「我は神、世界を統べる存在なり」


そして、今度はちゃんとした言葉として響いたではないか。


「しゃべった!? 生きているのか!?」


アキヒサもこれには驚く。

 いや、No.1が生命維持活動という意味では生きているのはわかっていたが、あんなツギハギの状態で自己主張できると思っていなかったのだ。


「意思を宿すような部位は全てマスター自ら破棄したのだぞ! 何故しゃべるのだ!?」


これはリュウも同様だったようで、驚愕の表情である。

 No.1がしゃべるなんてリュウにとってあり得ない事態らしいが、事実として今目の前でしゃべったのだから、考えられることといえば。


「代わりの部品を作って、使っちゃったとか?」


アキヒサは会話しやすいようにとリュウの方へとにじり寄りつつ、思いついた考えを口にする。

 拾った部品をツギハギしただけではなく、自作の代用品を作ってしまったのではないだろうか?

 アキヒサのこの意見に、リュウが目を見開く。


「だとしたら、なんという恐ろしいことを!

 生体兵器とは繊細な機構でないと、自己崩壊を起こすというのに!」


リュウにとって、目の前のNo.1の状態は生産職としてあり得ない暴挙であるようで、唾を飛ばさんばかりの勢いで叫ぶ。

 このリュウとアキヒサのやり取りを余所に、No.1がしゃべろうと気にしないのがレイだ。

 攻撃を続行して、頭部を攻撃しようとしたのだが。


 ヴゥン


 そんな耳障りな音が鳴った、次の瞬間。


 ドサッ!


 攻撃体勢だったレイが、ふいに力を失ったように地面に崩れ落ちる。


「……!?」


レイはなにが起きたかわからない様子で、地面でモゾモゾしているが、どうやら起き上がれないようだ。

 一体なにが起きたのか、アキヒサにもわからず呆然としていると、リュウがハッとした顔になった。


「『支配』か!? 『神』スキルだ!」


 リュウがそう叫ぶのとほぼ同時に。


 ヴゥン


 再びあの音がすると、リュウは立っていられなくなったのか、床に片膝をつく。

 それと同時に白い壁から発せられる光が止まった。

 リュウによるNo.1への干渉が止まったということは、自由になったということだ。


 ――攻撃が来る!


「レイっ、『結界』!」


 ジュゥウッ!


 アキヒサがとっさにレイを結界で守った一瞬後に、光線攻撃がきた。

 結界が光線を弾いたが、そのタイミングでレイがアキヒサに向かって跳んできた。


「レイ、痛いのか!?」


アキヒサが身体の不調を尋ねると、レイはふるふると首を横に振る。

 痛くて動けなくなったわけではないようだ。

 しかし調子が出ないようで、眉間にぎゅっと皺を寄せている。


「リュウさん、なにがあったの!?」


なにかに気付いたらしいリュウに問うと、リュウは苦しそうに立ち上がった。


「『神』スキルの『支配』は、生物を支配下に置く能力だ。

 アレこそ、混乱が長く収まらなかった最大の原因と言えるだろうが、我々にもある程度効くのか」


なんと、まさに神のような能力ではないか。

 スキルを『神』と名付けたこといい、リュウの言うマスターとやらは本当に神を現実に創りたいとでも考えたのか? それを周りの人間は止めなかったのか?


「それ、一番与えたらダメな能力!

 やっちまったなマスター!」


アキヒサは思わず声に出して叫ぶ。

 だんだんマスターの姿が、世間知らずの研究馬鹿の像で固まってきた。

 そしてレイがこちらに逃げて来られたのは、光線を発する瞬間に『支配』の力が弱まったのだろうと、リュウは語る。


「出力はアクセスポイントからとっていても、複数のことを同時に為すほどの容量を、本体に持っていないのかもしれない」


リュウのこの推測は、今のところ唯一の突破口に思えた。

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