第167話 後始末

レイがかなり手こずったNo.1は、リュウと戦った時よりも苦戦していたかもしれない。

 リュウ相手の時だと一応攻撃は通っていたが、No.1はまず攻撃ができるまでが長かったのだから。

 そのレイは、いつもならばたくさん魔物を倒してもケロリとしているのに、今はボーッとしている。

 レイは戦闘が思うように進まないという経験がほとんどないため、気疲れしてしまったのかもしれない。


「レイ、本当におつかれさん。

 疲れたろう? おやつを食べるか?」


アキヒサが尋ねると、レイがコックリと頷く。

 とはいえ、ちょっと周囲が散らかっているため、落ち着いて休憩するような状況ではない。

 けれどレイは気にしないらしいし、アキヒサは一応まだ無事そうなあたり一帯に『クリーン』をかけて、そこに敷物を敷いてパンケーキとアポルジュースを置いてやった。


「ほら、おいでレイ」


アキヒサが呼ぶと、レイがいそいそと敷物へと座る。

 そしてそのレイと一緒に、今回ほぼなにもしていないシロまでもレイの隣に座る。

 どうやらパンケーキに釣られたらしく、ちゃっかりした犬である。

 こうしてレイとおまけのシロがおやつタイムをしている間に、大人二人はこの場の後始末だ。


「動力石を、欠片でも残してはならん」


リュウがそう言うので、アキヒサと二人で床にへばりついての捜索となった。

 レイの拳は周りに絡みついた内臓ごと動力石を破壊したので、あちらこちらに飛び散っている。

 そのほとんどは本当に粉々なのだが、中には形を残した欠片がある。

 とはいえ、最も大きいもので、親指の爪程度の大きさだ。


「よし、全部拾ったぁ!」


『探索』スキルでも見当たらなくなったのを確認して、アキヒサは「う~ん」と大きく伸びをする。

 床にへばりつくようにして探していたので、腰が痛い。


 ――う~ん、温泉に入りたい……。


 この世界にも温泉はあるだろうか? あるならば、ブリュネにどこかお勧めの温泉地を聞いてもいいかもしれない。

 そんなことをぼんやりと考えていると、リュウが告げて来た。


「ソレはお前が持っておけ、私は持つのが怖い」


そう言ってリュウが動力石の欠片を全て包んだ布を、ズイッとアキヒサに差し出してくる。


「……別にいいけど、怖い?」


アキヒサは了承しつつも、リュウと「怖い」という言葉がなんだかそぐわない気がして、きょとんとしてしまう。

 すると、リュウが渋い顔になる。


「持つのが我ら生体兵器だと、なんらかの反応が起きてしまうかもしれん。

 そうなると、マスタ―不在の今対処できる者がいない」


リュウのこの言い分は、アキヒサにもわからなくもない。


 ――まあ、『支配』スキルが効いちゃったんだもんな、怖くなるのも当たり前か。


 けれど、こんな欠片になってもまだ恐れるとは、No.1とはそうとうにトラウマな存在らしい。


「こんな大きさでも、コイツはなにか出来るのか?」


アキヒサが包みの中から親指の爪先サイズの動力石をつまんで見せる。

 すると、リュウは即座に首を横に振った。


「いや、それではスキルもまともに作動せんよ。

 そもそもコレに仕込まれていた動力石も、元々の大きさのほんの欠片に過ぎない。

 だからロクなことができずに、ここでくすぶっていたのだろう」


「なるほど確かに、元々はリュウさんの元になったドラゴンなんだから、あれっぽっちじゃあ動かないか」


これまた納得の言い分に、アキヒサも頷く。


「だが、マスターは動力石の流用はせず、廃棄を決定された。

 つまり、なんらかの理由で我らと一緒にしてはならないと判断されたのだ」


だから万が一のことを考えて、近くに置いておきたくないのだという。

 確かにアキヒサにはNo.1の『支配」スキルが効かなかったのだし、コンピューターに貰った鞄に入れておけば、そう間違いは起こらないだろう。


「わかった、じゃあ預かっておく」


というわけで、アキヒサはNo.1の動力石の欠片を鞄に仕舞った。

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