第143話 謎多き金ピカ

「この教会の建物は、祖父がいなくなった後でも取り壊されたわけではないですから。

 領主様と近所の人たちの厚意で、親のいない子どもたちの寄る辺として整えられていたのです。

 私も金ピカにいた時には、休みの日にこっそりと様子を見に来ていました」


「なるほど、そうだったんですか」


アマンザの説明に、アキヒサは苦々しい表情になる。

 孤児救済活動を地下活動のように潜んでしないといけないとは、なんとも妙なことである。


「それで、あちらが引き取った『特別』な子どもとやらは、どうなるんですか?」


「教会本部で育てられるということですが、どこでどのように育てられているのかは、私にもわからないのです。

 それに子どもをお金で買うようなやり方は、あまりにも酷いことです」


アキヒサの問いに、アマンザは怒りと悲しみが混ざったような表情で語る。

 それにしても『特別』な子どもだけ引き取りたいとは、アキヒサはこれにどういう意図があるのかと考えて、やがてピンとひらめいた。


 ――もしかして「鑑定」系統のスキル持ちを探し出しているのか?

 そもそもの話として、もし「鑑定」のスキル持ちが世の中に大勢いたら、スキルの真実なんて直ぐに世間に露見してしまっていただろう。

 そのことを考えると、もしかして鑑定系統のスキルというのは、滅多に発現しないレアスキルなのかもしれない。

 そしてスキルを持っていても、アキヒサのようにスキルに慣れない人だと、その存在を感知して「使おう」という気持ちで挑まなければスキルは発動しないだろう。

 日常生活の中で「鑑定」スキル持ちなしでスキルの存在を知るなんて、それこそあのタブレットがないと無理な話だ。

 その「鑑定」スキル持ちを、グランデ神聖教会が独占していたとしたら、世間ではスキルについて知る術を失くすということだ。

 いや、もしかするとグランデ神聖教会内で偶然「鑑定」スキル持ちが現れたことで、スキル商売を考えついた可能性もあるかもしれない。

 「鑑定」系統のスキル持ちを教会に集めて、その中でも害にならなそうなスキルとしては弱い「観察」持ちだけを司祭として営業のために派遣して、「鑑定」は世間から隔離しておく。

 これでいつまでもスキルの扱いをいいようにできるということだ。

 アキヒサのこの推測が当たっていると仮定すると、グランデ神聖教会とはなかなかにあくどい組織のようだ。

 アマンザの話に、アキヒサがモヤモヤした気持ちになっていると。


「アン!」

シロの鳴き声が聞こえてきて、視界の端でレイがシロと一緒に例の扉をペシペシしている姿が見えた。


 ――そうだ、あっちのことを聞いてみないと。


「そう言えばアマンザさん、あの扉についてなにか知っていますか?」

アキヒサが改めて問うと、アマンザはそこで初めて扉を認識したらしい。


「……あら? あんな扉は見たことがないけれど」


驚くアマンザの様子だと、どうやら知らない扉のようだ。


「うん? でもどこかで似たような扉を見た気がするわね……?」


しかしアマンザはなにか記憶に引っかかるものがあるようで、扉に近づき触ってみている。

 引いたり押したりしてみるが、扉は動かない。

 アキヒサも試してみたが、扉はうんともすんとも言わない。

 けれど扉には鍵穴がある風でもないし、謎である。


「変な扉ねぇ……ああそうだ、あそこにもあったわね、こんな変な扉が!」


アマンザが「思い出した!」という顔で叫んだ。


「あそこ、ですか?」

言わんとすることがわからないアキヒサに、アマンザが扉をバシバシ叩きながら告げた。


「あの金ピカの中よ!」


「はい!?」


発言内容に驚くアキヒサに、アマンザが説明する。


「金ピカでも決められた者だけが通る扉があってね、その扉のことを『神が与えし恩恵』だとか仰々しい名前で呼んでいたわね。

 噂によると、『特別な寄進があった信者の方が特別なスキルを得るための部屋がある』とか言われていたけれども、真偽の程は定かではないわね」


「神が与えし恩恵、ですか」


それは、なんとも怪しそうな扉である。

 そんな会話をアキヒサとアマンザがしている横で、レイがまだ扉をペタペタ触っている。


「鬼神よ、そこではない」

するとリュウがそんなことを言いながらレイに近付いて、身体をひょいと抱えた。

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