第144話 鍵はコレでした
リュウは一体なにをする気なのか、レイの小さな手を持つ。
「……!」
レイはリュウに抱えられるのが嫌なのか、ジタバタと大暴れする。
リュウには結構本気の蹴りがドコドコと入っているはずだが、このドラゴンは全く構わず強引にレイの手をうごかす。
「ちょっとリュウさん、嫌がることを無理やりするのは……」
アキヒサがリュウを止めようとした時、レイの手がリュウによって、扉の真ん中の文様のようになっている個所に触れさせられた。
その直後。
ゴゴゴゴ……!
なんと、扉が勝手に重たい音を立ててスライドして開きはじめたではないか。
「は!?」
アキヒサはあっけにとられる。
扉が自動で開いたこともそうだが、扉の向こうには空間があったことにもビックリだ。
「まあ、壁の向こうは街壁のはずなのに!?」
アマンザもこの扉の向こうは街壁だと考えていたらしく、空間があるのに驚いている。
空間は明かりがなく真っ暗だが、下り階段が続いているのが暗がりの中に見て取れた。
こうして、アキヒサたちが扉のことでポカンとしていると。
ドゴオッ!
傍らですごい音がしたかと思ったら、レイがとうとうリュウに渾身の攻撃をしたらしく、攻撃の衝撃で拘束が緩み、逃れてきてアキヒサの足にしがみつく。
「ウゥ~!」
眉間にすごい皺を寄せてリュウに向かって唸るので、よほど抱っこされたのが嫌だったらしい。
レイは別段他人との触れ合いを嫌がる子どもではなく、ブリュネには平気で抱えられるのに、ここまで拒否するのは珍しい。
リュウとはよほど気が合わないようだ。
「レイ、ほらここの皺が癖になっちゃうぞ、よしよし」
アキヒサがレイを抱きかかえてなぐさめると、レイはアキヒサの胸に頭をグリグリしてきた。
こういう風に甘えるのも珍しく、そんなにリュウの抱っこが不快だったということか。
レイから全力拒否された形のリュウだが、そのことで別段ショックを受けている風でもなく、首を傾げた。
「鬼神はなにをしているのだ? 開けようとしていたから、触れる場所が間違っていると教えてやったのだが」
きょとんとした顔は、ある意味純朴な青年のそれである。
いや、素直さという意味では純朴と言えるだろう。
このドラゴンは自分の気持ちに素直で、やりたいことは勝手にやる生体兵器なのだ。
アキヒサはリュウに他人の心の機微を説明するのは難しい気がして、とりあえず疑問を口にする。
「リュウさん、この扉ってどうやって開いたんだ?
さっきは僕らがどうやっても開かなかったのに」
この問いにリュウが答えた。
「我々の生体情報で開くようになっている扉だからな、触れば開くのは当然だ」
リュウは「なにを当たり前のことを聞くのか?」という顔をしているが、なんともさらなるビックリ情報が出てきたものだ。
――我々って、生体兵器が鍵ってことか!?
それはつまり、生体兵器に関連する施設がこの奥にある、ということに他ならない。
それは、グランデ神聖教会がこの地を重要視しているらしいことと、なにか関係があるのだろうか?
予想外の展開に、アキヒサがレイを抱っこしたまま「う~ん」と唸っていると。
「なるほど、ここはアクセスポイントの基地のひとつであったか。
かつてとはずいぶんと地形が変わったものだ」
リュウが一人感心している一方で、アマンザが気がかりそうに尋ねてきた。
「あの、なにかわかったのですか?
あいにくと私はこのような扉について、祖父からなにも聞かされていなかったものですから」
「えっと、わかったような、わからないような……」
これに、アキヒサはあいまいな答しか返せない。
なにしろ全てをわかっているであろうと思われるリュウの口から、説明させるわけにはいかないのだ。
きっと彼は今の時代の人にもわかりやすく、というような気遣いはできない気がするし、第一生体兵器云々を伏せて話すことができるとも想えない。
そんなわけで、アキヒサが現状をどう言うべきかと脳みそをフル活動して考えていると。
「しさいさま~」
孤児院になっている建物につながる扉が開いて、ミチェが彼女よりも小さな男の子を一人、手を引いて出てきた。
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