第142話 子どもたち

子どもたちが楽しそうに――約一名のみ落ち込んだ様子で隣の建物の確認に去っていくと、教会内は静かになった。

 ところで、隣の建物から出てきたのはやはり子どもばかりのようだったし、アマンザも先程の会話で「子どもたちの食費」と言っていたのを思い出す。


 ――やっぱり、隣は孤児院かな?


「あの、あの子たちは、その……」


アキヒサは自分の考えを確認しようとするが、「あの子どもたちは孤児ですか?」などとズバリ尋ねるのがためらわれて、口ごもる。


 そんなアキヒサに、アマンザがニコリと微笑んだ。


「アキヒサさんは優しい人ね。

 あなたのお察しの通り、ここは孤児院でもあるの。

 あの子たちは皆、理由があって親と一緒に暮らせないのですわ」


アマンザの説明に、アキヒサもやはりと納得する。

 子どもたちの服装はツギハギだらけの古着だったが、身体つきは痩せ過ぎなどの健康状態に不安のあるような子は、アキヒサがぱっと見た限りではいなかった。

 領主からの支援で、食料だけは辛うじて足りているのだろう。

 もしかしてブリュネも、農園の野菜を差し入れしているのかもしれない。

 それに今回の修復の陣とやらの影響で建物の隙間がなくなったら、子どもたちが風邪をひかなくなって治療費が減ると考えられる。


 ――そう考えると、いいことをしたな。


 アキヒサはこの騒ぎをポジティブに考えることにした。

 一方で、アマンザは「ふぅ」とため息を吐く。


「本来ならば、あのお金をたぁんと持っている金ピカこそが、多くの子どもたちを保護するべきでしょうに。

 連中はそうした慈愛を示したりはしないのです」


アマンザ曰く、グランデ神聖教会が元からあった教会を潰したり吸収したりする過程で、その教会にあった孤児院までなくなってしまい、孤児たちの行き場がなくなってしまっているのだという。

 一部余裕のある領地では、領主が孤児院を引き継いで経営しているそうだが、どこでもできることではないそうだ。

 なんでも、グランデ神聖教会は自ら孤児を保護しないくせに、他者の孤児救済事業には口を挟んでくるらしい。

 そのなんやかんやのやり取りが面倒で、領主が孤児院経営に二の足を踏むことになってしまっているのだとか。

 事実、ここニケロの街でも領主は私財から補助こそすれ、孤児院を公的事業にしようとはしていない。


「あっちの教会は、なんて言ってくるんですか?」


アキヒサがそう疑問を口にするのに、アマンザは「それが」と話す。


「自分たちが保護するはずだった孤児を誘拐しただろう、けしからんので国に罰してもらうが、それが嫌ならば罰金を払えと、そう言ってくるらしいのです」


なんとも、矛盾する内容である。


「……あそこは、孤児の保護はしていないんですよね?」


そう言って首を捻るアキヒサに、「そうなんだけど」とアマンザが頷いてから続ける。


「つまり連中の言い分としては、全ての孤児は要らないのだけれど、その中で連中が目を付けた『特別』だとみなす子どもだけは引き取りたいようなのです」


「それは、なんとも都合がいい話ですね」


アキヒサは呆れてしまうが、この「特別」な子どもに選ばれるのは、なにも孤児だけではない。

 両親のいる家庭で育った子どもであっても、ある日突然グランデ神聖教会の関係者が「おたくの子どもを引き取りたい」と尋ねてきて、協力金として大金を置いていくのだとか。

 それが知られているので、孤児たちには「特別」に選ばれることを望む子どももいるらしい。

 しかし、そんな例はごくごく少数で、ほとんどの孤児は「特別」にはなれない。

 そして孤児救済に乗り出した領主がグランデ神聖教会の難癖により国に訴えられれば、罰せられるのは確実だそうで、おかげでどこの領主も孤児救済に積極的になれない。

 だからどこの街にも、昔はなかったスラムが出来てしまっているそうだ。

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