第141話 神様に謝りたい

「しさいさまぁ~!」


「ふえぇ~ん!」


幼い子たちが泣きながらアマンザにしがみつく。

 その中には、あの脱走未遂犯のミチェの姿もある。


「まあまあ、みんな怖かったわね、なんともなかった?」


アマンザはなにがあったかなどを聞くよりも先に、まずは子どもたちを一人ずつギュッと抱きしめている。

 それで子どもたちは泣き止まないまでも、ぐずるくらいに落ち着いたようだ。


 ――そうだよな、急に家が光ったら怖いよな。


 アキヒサが子どもたちにリュウを止められなかったことを謝りたくなった時。


 クイクイ!


 服の裾が引っ張られたかと思ったら、足元にレイがいた。

 こちらは特に動揺している風ではなく、いつも通りの無表情だ。

 けれど登っていた神像から落ちていた。

 身軽なレイのことだから、おそらくは無事着地できたのだとは思うが、それでも心配である。


「レイは怪我とかしてないか?」


アキヒサがしゃがんでレイの怪我の有無を確認すると、レイはフルフルと首を横に振ってから、ピッと神像の方を指さした。


「うん? そっちがどうかしたのか……」


レイが指さす方向を見て、アキヒサはすぐソレを発見する。

 なんと神像の後ろに、目立つ両開きの扉が出現しているのだ。

 その扉を、シロが前足でテシテシと叩いているのが見える。


「壁だったよな? あそこ」


呆然と呟くアキヒサは、色々あり過ぎていまいち頭がついていけていないのだが、そんなアキヒサをよそに満足そうなのがリュウだ。


「ふむ、どうやら壁に埋められていたかどうかしていたのが、『修復』で復活したようだな」


リュウが一人納得しているが、教会の裏は街の壁で、行き止まりだったはず。

 どこに通じている扉だというのか? アキヒサは扉についてアマンザに聞いてみようと思ったのだが。


「司祭様、これは一体なにが起きたのでしょうか?」


「さぁねぇ、私にもなにがなんだか……」


そこへマリーとアマンザのそんな会話が聞こえてきて、アマンザがアキヒサたちの方をチラチラ見てくる。


 ――マズいぞ、これは。


 アマンザもリュウが何かしていたことを見ていたので、この異変の原因がアキヒサたちにあると考えてしまうかもしれない。

 というか確実に考えるだろう。

 その前に、どうにかしていい感じにうやむやにしてしまいたい。

 そう思ったアキヒサがとっさに口にしたのは。


「神様、そう! 神様っているんですね!

 きっと神様がご褒美に建物を新築にしてくれたんですよ!」


アキヒサはこのように、アイカ村と同じ感じで押し通そうとした。

本人としても、多少無理があるとは思ったのだが。


「まあ、神様って本当に私たちを見ていてくださっていたのですか!?」


素直な女の子らしいミリーが、感動したようにこの流れに乗ってくれる。


 ――よし、いいぞ!


 アキヒサとしてはミリーがこんなにコロッと信じてしまっては、いつか悪い大人に騙されやしないかと心配ではあるが、今だけはありがたい。


「そうねぇ、なんでもアイカ村では塔が神の御業によって生えたなんて、奇怪な噂があるようだし。

 神の気まぐれでこういうこともあるかもしれないわねぇ」


アマンザがほほ笑みながら、ミリーにそう語りかける。


「まあ、そのような神の塔があるのですか!?」


ミリーの中で、アイカ村のタワマンが神の塔になってしまった。

 制作者は神なんかではなく、ここにいるドラゴン型生体兵器なのに。


「かみさま~?」


「こわくない?」


それまでグズグズと泣きべそ顔だった子どもたちも、ミリーが喜んでいる姿を見て、釣られるように不安が和らいでいるようだ。


「そうだ! 神様のお力で穴がすべてふさがったかどうか、確かめにいかなくっちゃ!」


ミリーがそう言いながら元気に隣の建物に戻っていく。

 彼女に続くようにして、他の子たちも「あなさがし~♪」と駆けていく。


「あな、ないの?」


一人、脱走犯ミチェだけがショックな顔をしていた。

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