第六章 グランデ神聖教会
第129話 ただいまニケロ!
「帰って来たぁ~!」
ニケロの街の門に到着した時、アキヒサは思わず「う~ん」と伸びをしながらそう言った。
「かえった」
レイも真似をするが、言い方がまるで家族が寝静まった頃にひっそりと帰って来た、哀愁を背負うサラリーマンのようだ。
「ふむ、このあたりはなんだったか……」
アキヒサたちの傍らで、リュウが記憶を掘り起こしていた。
そう、ここまでついて来てしまったのである。
なんでもあてなくフラフラするのは性に合わず、ゆえに「お前達に同行するのが楽でいい」とのことだった。
妙なことでズボラなドラゴンである。
――街に入るのに列に並ぶのも、なんだか懐かしいなぁ。
こんな風に感慨にふけるアキヒサだが、実のところニケロを発ってからそれほど日数が経っているわけではないのに、まるで半年ぶりくらいの気分だ。
それだけアイカ村で色々あり過ぎたのだろう。
「ふむ、この壁は原始的だが有効だな」
その色々の一部というか、大半を担っているリュウが、ニケロの街の外壁に早速ケチをつけている。
本人はケチをつけているつもりではないのだろうが、街の側からすると立派なケチだろう。
アキヒサはリュウの事は気にしないようにして、列の最後尾に並んでいると、ふと気付く。
「そうだ、リュウさんって当然身分証なんてないだろうし、門の中で取り調べをされるからね。
変な事を言わないように、今からなんて説明するか考えておいてくれよ?」
アキヒサの忠告に、リュウは「ふむ」と眉を上げる。
「身分証とはなんだ?」
リュウに尋ねられ、アキヒサは「こういうのだよ」と冒険者ギルドのカードを見せた。
「これはまた古臭いシステムを使っているな。
鬼神も持っておるのか?」
「む!」
リュウに聞かれたレイが、ビシィッ! とカードを突きつけるように見せている。
どことなく自慢気だ。
「ふむふむ、なるほど……」
アキヒサとレイのカードをじっくりと眺めたリュウはそう呟くと、手をニギニギしていたかと思ったら、微かに光を生み出す。
「これでいいか」
そして差し出した手の中にあったのは、なんと身分証であった。
アキヒサはギョッとして、思わず周囲をキョロキョロとする。
――よかった、誰も見ていなかった!
いや、正確に言うと、リュウはそこそこ存在感があるのでチラチラと見られてはいるのだが、ガン見するのは噛みつかれそうなのか、じっくり見てくる人がいなかったのだ。
「ちょっとそれ、いつ作った身分証!?」
アキヒサは小声でリュウを問い詰める。
「今作ったに決まっておろう」
するとリュウから「なにを当たり前のことを言うんだ」という様子でそう返されたアキヒサは、気が遠くなる気分である。
セキュリティとかは大丈夫なのか? と思わず心配してしまう。
それにしても、なにせ古代の技術の再利用なので、その古代の技術を造った張本人には色々とザルであるらしい。
ゲシゲシゲシ!
アキヒサの様子を見て、レイはリュウがなにか悪いことをしたらしいと察知したのだろうか?
レイがリュウの足を結構強めに蹴っていた。
レイとてそれでも全力で蹴っているわけではなく、リュウにはちょっと赤くなる程度のダメージしか入らないことはここまでの短い旅路でわかっているので、アキヒサはこの二人のやり取りは気にしないことにして、その身分証をよくよく見せてもらう。
表示では名前が「リュウ」になっていて、所属は聞いたことのない国だった。
「この国って、実在するんですか?」
「実在するように表示されるだろう、そうプログラムしてあるからな」
アキヒサの質問に、リュウが軽い調子で答える。
「あ、そうなんだ。ハハハ……」
犯罪っぽいその言い方に、アキヒサは不安を通り越して乾いた笑いしか出ない。
――常識を知らない生産系チート、怖い!
結果を言うと、問題なく門を通れたのだが、アキヒサは一人でドキドキしていた。
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