第128話 ようやく、全部解決
その後。
ゴルドー山の問題が解決したのと、家の問題が解決したのとのダブルのお祝いということで、麦ご飯祭りは最高に盛り上がった。
アキヒサが作ったふりかけも好評で、アイカ村で他にもいろいろな野菜で試しに作ってみるとのことだ。
人気のない野菜というのは、カブの葉の他にもあるものである。
祭りが終わったらタワマン宿泊初体験をした村人たちは、建物の断熱性が高いために毛布に包まっているだけで十分夜を過ごせた、と喜んでいた。
タワマンには今のところライフラインがあるだけで布団などの生活物資はないが、それでもこれまで壊れかけの家で隙間風に凍えながら、家族で温め合いながら過ごした夜に比べれば、雲泥の差であるという。
そして翌日には、避難した人たち以外の村人たちも、タワマンに集まっていた。
昨日麦ご飯作りにかかり切りで、見学できなかった人たちもいたのだ。
アキヒサはちょうどいいと、「なんか鍵っぽいのがある~」と棒読みでお知らせして、タワマン暮らしをする住人に生体認証の鍵登録をしてもらった。
最初は生体認証の登録で手間取るかとアキヒサは思っていたが、街に行けばあのタブレットの存在があるのでこういうコンピューター系に対するアレルギーはそれ程ないらしく、村人たちも案外すんなりと手続きが済んだ。
むしろ大きな街でしか触れないタブレットの変化版があるということで、村人たちは登録したり解除したりを繰り返してワイワイと楽しそうに触っている。
部屋の中から鍵を開けるシステムも、ちゃんと発見して教えておいた。
――新しいものを受け入れられるかって、年齢とか田舎か都会かじゃなくって、好奇心なんだなぁ。
アキヒサはしみじみとそう思う。
それで言うと、アイカ村の人たちは田舎生活で目新しいものに飢えていて、尚且つ古いものに固執しないという、うってつけの人たちだったのだろう。
これがもしなんらかの宗教で「コンピューター的技術は敵だ!」というお土地柄だったら、無理だったに違いない。
アキヒサはそんな風に村人たちを遠目に見ながら、村人たちの騒ぎように全く興味ナシのレイをくっつけて、タワマンの設備確認に余念がないリュウをさり気なく見張っていた。
またなにか生やされてはたまらないので、見張りは必須なのだ。
あと、色々あり過ぎてすっかり忘れかけた頃になって、アイカ村を襲って捕まった盗賊たちの引き取るために、ようやくニケロの街から兵士が派遣されてきた。
そう、盗賊たちはまだ村にいたのである。
「は? え? なんだアレ?」
兵士を呼びに一人でニケロまで行った村人の男は、自分が出立した時とうって変わって明るい村の様子に目を白黒させていた。
――まあ、そうなるよな。
壊れた家屋は見えるものの、それ以上に存在感のあるタワマンがデーンと生えているし、彼の脳内は「?」だらけで、気分は浦島太郎なことだろう。
「なんだか、想像と違うぞ」
「お祭りでもしている最中なのか?」
こんなことを話す兵士も同様に驚いているが、彼らは自分たちの仕事をすぐに思い出したらしく、盗賊の身柄確保をテキパキとやっていた。
アキヒサは兵士たちに村までの道中について話を聞いてみる。
「不気味なくらい街道が静かで、魔物どころか獣一匹見なかった」
「きっとあれだ、ドラゴンのせいだろうなぁ」
「馬が怯えちまって、、走ってもらうのに難儀したよ」
するとそんな答えが返ってきた。
――よかった、魔物は山に戻ったみたいだな。
リュウにグルリと飛んで回ってもらった効果があったようだ。馬にはとんだとばっちりだったようだが。
ともあれ、こうしてようやくアイカ村の騒動が終わった。
ちなみにアキヒサは村の救世主だと言われ、タワマンの最上階の所有権を貰ってしまった。
図らずもテント住宅以外の住処をゲットしたアキヒサであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます