第127話 時代遅れらしい
そんな新情報を得たところで。
タワマンの部屋は暮らすには十分な設備が整っているということが確認できたので、モーリスは嬉しそうだ。
「早速低い場所の部屋に、家を失くした人たちを避難させることにしましょう!」
そう話すモーリスはひとまず避難中の村人たちに話をするべく、先に一人でタワマンから離れた。
――鍵については、今じゃなくて明日でもいいかな。
アキヒサはモーリスを見送りながら、そう考える。
というかモーリスは鍵について疑問に思ったりしなかった。
田舎なので、そのあたりのセキュリティー管理がおおらかなのかもしれない。
それになにせ今は麦ご飯祭りの準備中なので、村人たちはそちらに集中していることだし、細々したことの説明に向かないタイミングだろう。
そして今のうちに、アキヒサはリュウに尋ねる。
「ねぇリュウさん、あの転移陣っていうの、エレベーターに変えられないかな?
もしくはエスカレーター」
このアキヒサの提案に、リュウは真顔でしばし黙り込む。
これは無理か? とアキヒサが思った時。
「なるほど、時代遅れの技術を利用するという考えはなかったな」
リュウがそう言って目から鱗が落ちたような顔をされた。
――いやいや、時代遅れっていう言い方はおかしいから。
ただリュウの中の時代がはるか昔で止まっているだけだ。
そしてリュウ曰く、転移陣は空間を歪める術であるために多用禁止事項として、規制のかかった技術なのだという。
だからマスターシステムが作動していないと使えないが、エレベーターであったならば規制のない簡単な仕組みであるため、今すぐにでも使えるらしい。
というわけで、リュウが早速転移陣があった場所をエレベーターに改造した。
外が見れるガラス張りバージョンである。外が見えない箱に閉じ込められるというのは怖いのではないか? とアキヒサが考えを述べた結果、こうなったのだ。
エレベーターが昇っていく高さに慣れないと怖い気がするが、なにも見えない箱に乗る方とのリスクはどちらも同じくらいかもしれない。
そのエレベーターの試乗ということで、タワマンの最上階へ行ってみた。
最上階はワンフロアで一戸だった。なんとも贅沢な間取りである。
高い建物がないため、ものすごく見晴らしがいい。
ゴルドー山が良く見えて、これは将来人気の物件になるかもしれない。
そして、レイがまた大きなガラスにべったり貼りついている。高い景色が珍しいのだろう。
「レイ、すごいね。鳥さんと同じくらいの目線だよ」
「とり……」
レイは鳥目線なことが不思議なようで、首をかしげていたかと思ったら、片手で隣のシロの首をギュムッと掴んで持ち上げた。
どうやら「シロもここまで飛べるのか?」と聞きたいらしい。
「シロは、まだここまで飛べないかなぁ」
アキヒサはそう教えてやりながら、レイの手をシロの首から外してやる。
レイはどうも考え事をしながらだと、シロの扱いが雑になりがちなようだ。
ちょっとピクピクしているシロだが、これからも強く生きてほしい。
タワマンの移動問題が解決したところで、早速家を失くして避難中の村人たちが少ない荷物を抱えてやってきた。
「雪や風が防げるだけでもありがてぇ、山神様ぁ~!」
「「「山神様ぁ~!」」」
そんな風に話しながら、あちらこちらを拝みつつ階段に向かう村人たちだったが。
「わぁ、なんだこの箱~。
上に移動が楽に出来て快適だったなぁ~」
アキヒサは再びの棒読みで発見を知らせる。
「なんだこのはこ~」
隣でレイも真似をして棒読みをしている。
なにかの遊びだと思ったのかもしれない。
これを聞きつけたモーリスが、不思議そうに眼を瞬きながら寄って来た。
「箱ですか?
おや、このような箱がありましたかな?」
「あったみたいです。
さっき試しに乗って見たらなんと!
楽に上の階に行けちゃいました!」
「楽に……?」
モーリスはどんな風に楽なのかが想像できないようで、戸惑うような表情である。
「乗って見ればわかります。
危ないものではなかったですから」
アキヒサはそう言うと他の村人を待たせ、まずモーリスと一緒に最上階へと昇ってみた。
ちなみにこのエレベーターには、重量制限もちゃんとあるらしい。
そして最上階に到着すると。
「ふぉう!? なんと、なんと……!」
再び「なんと」しか言わなくなったモーリスが、しばし最上階からの眺めに感動ていた。
それから早速、エレベーターで村人たちに移動を開始してもらう。
しかし高い建物に慣れていない村人たちは眺めがいい上層階が怖いようで、低層階から埋まった。
けれど慣れたらその内、上の階を好むかもしれない。
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