第130話 報告です
なにはともあれ、無事にリュウも門を通れて一安心したころで。
「とりあえず、冒険者ギルトに報告に行こうか」
「ほうこく」
アキヒサがこれからの行動を話すと、レイはコックリと頷く。
「冒険者ギルドとはなんだ?」
するとリュウがそう問いかけてきた。
「あれ、話してませんでしたっけ。
ざっくりとした言い方だと、僕たちに仕事を斡旋してくれる組織です」
アキヒサがそう説明すると、リュウは「なるほど」と頷く。
そして当然、付いてくるという。
――まあここで別行動をされても困るんだけどね。
アイカ村よりも都会なニケロでリュウを自由にしてしまい、またなにか建物を生やされでもしたら大事になってしまうのが目に見えている。
今度は「山神様の奇跡」とはならないだろう。
「レイ、僕も気を付けるけど、リュウさんをちゃんと捕まえておいてくれな?」
「ん!」
アキヒサのお願いに、レイが「まかせろ!」と言わんばかりに片手の親指を立てる。
誰かがやっているのを見たのだろうが、とても様になっていた。
そんなやり取りの後。
やって来た冒険者ギルトの中は、時間的にこれから混んでくるであろう頃だったので、非情に賑わっている。
「ほう、なるほどなるほど」
なにがそんなに「なるほど」なのかわからないが、リュウがあちらこちらにキョロキョロと目を向けて、フラフラと歩て行こうとするのを、アキヒサはローブの首元を握って阻止する。
ちなみに、リュウの今の服装はアキヒサの服を着てもらっていて、アキヒサよりも体格のいいリュウだと手足の丈が寸足らずになっている。
アイカ村では盗賊騒動でみんな忙しなかったので、リュウはこの格好でもそれほど注目を集めなかったが、ニケロだとどうにも悪目立ちしてしまっていた。
早急に適当な服を用意しないと、余計なトラブルが起きるかもしれない。
例えば、貧乏人だと思って妙な輩に絡まれるなどが起きると、惨劇の始まりである。
リュウはレイよりも穏便な性格らしいが、それでも生体兵器の普通と人間の普通は違うだろうし、ただ払いのけただけでも大惨事になる気がする。
――冒険者ギルドを出たら、服屋だな。
アキヒサがこの後の予定を脳内に書き込んでいると。
「トツギさん、お帰りなさい」
受付の一つから声をかけられ、ニールが手招きしている姿が見えた。
混み合っているのに、ニールがいるカウンターだけが空いている。
――なんだろう、僕らが帰ってきたのを誰か報告に走ったのか?
そうとしか思えないニールのスタンバイに、アキヒサは一人で首を捻る。
ともあれ、アキヒサは素直にニールのカウンターに向かうと、行きの時と違って一人増えていることに、彼は当然気付く。
「そちらの方は? 見ない顔ですが」
「彼ですか? 道中で知り合った旅の研究者の方でして、意気投合したので一緒にニケロまで来ちゃいました」
ニールからの質問に、アキヒサはこういう時のために用意していたアリバイを話す。
何度も脳内で繰り返したので、棒読みになっていないはずだ、たぶん。
リュウは自分のことを話されていても会話に参加することはなく、カウンターの中で作業をしている人たちの動きが気になっているらしく、「ふむ」とか「ほぉ」とかしきりに頷いている。
「研究者の方ですか、なるほど」
なにが「なるほど」なのか分からないが、幸いニールはそれ以上言及しなかった。
リュウのことはこれで流してくれるらしいので、アキヒサは早速仕事の報告をする。
「アイカ村には無事、荷物を届けてきました。こちら村長さんのサインです」
アキヒサは鞄から書類を出す。
「聞きましたよ、到着早々に盗賊に出くわしたとか。
アイカ村には運が良かったですね」
ニールが書類を受け取りながら、そう話題を振ってくる。やはりこちらにもその話が来ていたようだ。
「それに関しても、アイカ村の村長さんから預かっていまして」
アキヒサは先程のとは別の書類を提出する。盗賊退治やトム少年の捜索についての依頼と完遂の書類だ。
後出しになってしまうが、緊急事態ではよくあることらしい。
「確かに、受け取りました」
ニールがこちらの書類も受け取ると、中身に目を通していく。
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