第125話 見学してみた

このタワマンだが、リュウには仕上がり具合が不満足であるようで、やはり転移陣が使えないのが気になるらしい。


「マスターシステムがなくてはあの程度のものも創造できんとは、なんたることだ……」


リュウがそう呟いて、一人でひっそり項垂れている。


 ―― 十分に便利だし、村の人は助かっていると思うけどなぁ?


 どうやらこのドラゴン、なかなかに完璧主義であるようだ。


「このエリアのみでもマスターシステムを起動すればいいのか。

 はて、システムにアクセスできるポイントはどこであったか?」


なんだかブツブツと言っているリュウの事は置いておくとして。

 タワマン上りに挑戦していた人たちが、続々と降りてきている。

 どうやらある程度の高さで満足して、さすがに頂上までは行かなかったようだ。


「いやぁ、あんな眺めは初めてだ!

 山のてっぺんからの景色とは、また違うぞ!」


「ただの塔かと思ったが、なんとたくさん部屋があったんだ!」


「ここで雨風を凌げばいいんじゃないか?」


「水くらい、若い衆で運ぶさ!」


麓で待っていた村人と合流してワイワイと騒ぐ声を聞いて、アキヒサは「あれ?」と気になった。


 ――水道設備に気付いていないっぽいぞ?


 そしてテント住宅と同じ設備ならば、おそらくは照明やコンロのような設備もあるはずなのに、そちらもなにも触れられていない。

 本当に階段を上っただけだったのか、はたまた設備に気付かなかったのか?

 そのあたりはわからないが、アキヒサも中に入って中の設備を確認したくなった。


「どういうことだったのでしょうか……?」


そこへ、他の事もしなければならないので、遅れて現場に到着したモーリスがやってきた。

 ナイスタイミングである。


「モーリスさん、どうやら部屋がたくさんある塔のようですよ?

 危険はないようですし、中を見に行ってみましょうよ」


「部屋ですか、今の村人にはありがたいものですが、けれどどうして……?」


どうやら「山神様のおかげ」と割り切れないでいるらしい不思議顔のモーリスと一緒に、アキヒサたちは塔の中に入ることにした。

 念のためにリュウも一緒に来てもらう。

 これ以上リュウを放置して、余計な構造物を作らせないためである。

 カブの葉ふりかけおにぎりを食べて気分を一新したレイも当然シロを抱えて一緒に来るが、高いタワマンを眺めるのに首が痛そうだ。

 こうして入った一階は、ホテルのフロントのようになっていた。


「なんだか、宿の受付のような雰囲気ですなぁ」


モーリスも似たような感想を抱いたようだ。


「人間とはとにかく煩わしい問題を多く抱える生き物であるからな。

 ここで雑多な問題をまとめておった……気がする」


リュウがそのようなことを語るが、なにせはるか昔過ぎることなので、言葉の最後があやふやである。


「一階には部屋がないみたいですし、二階に上がってみましょう」


アキヒサはそう促して、皆で二階に上がる。

 二階には階段で上がるが、ちなみにリュウが嘆いている転移陣は、日本だったらエレベーターがあるであろう場所に複雑な文様が描かれた場所があったので、あれがそうなのだと予想する。


 ――っていうか、エレベーターじゃあダメなのか?


 同じ魔術系の技術でも、エレベーターの方がなんとかなる気がした。

 例えば風の魔術で箱を移動させるとか。

 このあたりは後でこっそりリュウに話してみるとして、今は内覧だ。

 階段を上がると内廊下に出た。

 一回同様に文様がある場所の前を横切って廊下を歩くと、ドアが三つあった。

 どうやらワンフロア三戸であるようだ。

 アキヒサたちはとりあえず一番近くにある部屋に入ってみることにした。


「あ、これ鍵は?」


ドアを開けてから気付いたアキヒサは、ひそっとリュウに尋ねる。


「生体認証式だ。

 一階で生体情報を登録すれば、それが鍵となるのだ。

 客人は部屋の中から操作すれば招き入れられる」


「それ、なんてオーバーテクノロジー!?」


リュウからそんな答えが返ってきて、アキヒサは思わず大きな声が出た。


「なにか見つけましたかな!?」


突然の大声に、ビクッと三センチくらい跳び上がったモーリスが尋ねてくる。


「いえ、ちょっと大きな声を出したくなっただけです。

 驚かせてすみませんでした」


未知の建造物に入ってただでさえ緊張しているモーリスに余計なストレスをかけまいと、アキヒサは笑って誤魔化す。

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