第123話 生えたモノ

「ふっ、我にかかればざっとこんなものだな」


一人満足気なリュウに、アキヒサは詰め寄る。


「ちょっとリュウさん!

 これは一体なんなんですか!?」


この質問に、リュウは顔をしかめる。


「なんなのだとは、我の方が言いたいぞ。

 ヒトとは我の鼻息ひとつで死ぬほど、脆弱な生き物だというのに。

 穴倉や掘っ立て小屋ですらない、ただの地べたで暮らすなど、なんという無茶をするのか!

 これだとすぐにも死んでしまうのではと危惧してだな、軽く住処を建ててやったまでよ」


「建てた?」


 ――って、どうやって?


 この点をレイとリュウの二人からよくよく話を聞くと、なんとなく概要が見えてきた。

 リュウが気の向くままに村を見て回っていると、村の一角の家屋がボロボロになっているエリアへやってきたんだそうな。

 お目付け役としてちゃんとついてきていたレイに、「あれはなんだ?」とリュウが尋ねたので、レイは「わるいヤツがこわした」と答えたんだとか。

 ここまでは、別段おかしなやり取りではない。

 リュウは「なるほど」と頷き、一人何事かブツブツと呟いていたかと思ったら、急にリュウの足元からこのタワマンが地面からせり上がって来たと、そういうことらしい。

 この話だと、レイが「ニョキニョキ」としか表現しようがなかったのもわかる。

 まさかタワマンを生やすとは、生体兵器おそるべしだ。

 そしてなんとなくだけれど、レイのこのセミ状態の理由が分かった気がした。

 いくらお目付け役を自ら買って出たとはいえ、レイにこの「タワマン生やし」を阻止するのは難しかっただろう。

 むしろ、一体誰にだったら止められたというのか?

 アキヒサにセミみたいにくっついていたのは、寂しかったというよりは、お目付け役をちゃんとできなかった悔しさからだったのかもしれない。

 リュウのことを聞いたら、珍しく渋ぅ~い顔をしていたことからも窺える。


「これは仕方ない、レイは悪くないよ。

 その代わり急いで僕を探しに走って来てくれたしね」


アキヒサが「いいこ、いいこ」と頭を撫でたら、レイはようやくセミ状態から脱してアキヒサの足元へ自分で立った。

 それでも、アキヒサのズボンを掴んでいたけれども。

 とにもかくにも。

 この目立つタワマンは当然村人全ての目に留まったわけで、大変な騒ぎになっていた。

 それにしてもまさか、リュウがタワマンを生やすことができるとは驚きであるアキヒサの脳裏に、ふとリュウのステータスのことが浮かんだ。


 ――そういえばリュウさん、「地神」っていうスキルだったな。


 あれのことを、レイの「鬼神」の地属性版だとしか考えていなかったアキヒサだが、ひょっとして攻撃系じゃなくって、生産系のスキルだったりするのだろうか?

 そこのところは気になるものの、これは完全にリュウの好意でやったことで、建てちゃった(生やしちゃった?)ものは仕方ないとして。

 問題は、タワマンが生えた原因をどう誤魔化すか、ということだろう。

 素直に「リュウさんが生やした」だとダメなことはわかっている。

 まだスキルについて詳しく認知されていないこの世界で、スキルの中でもぶっ飛んでいる部類に入るこのタワマン生やしを、世間は果たしてどう思うのか?


 ――いいイメージが思い浮かばないなぁ……。


 ブリュネが知ったら、頭痛どころではないだろう。

 アキヒサがそんな風にグルグルと考えていると。


「山神様の奇跡じゃあ!」


タワマンを囲んでいた村人たちの中の、とある老人がそう叫んだ。

 「え、なんで?」とアキヒサは思ったのだが。


「そうか、山神様が……」


「山神さまぁ~!」


何故か村人たちには、山神様パワー説が伝染するように広まっていく。


 ――神様どころか、生体兵器が建てたんですけど?


 責任を押し付けられて、神様は怒らないだろうか?

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