第122話 なにかがニョキニョキしてた

結果として、なにがあったのかはすぐにわかった。

 なにせ景色の中に、それまではなかったはずの高い建物が見えたのだから。


 ――え、どゆこと?


「なんだあれ?」


アキヒサの心の声とシンクロするように、モーリスの口から疑問が漏れ出た。

 しかしこの答えは、周りの村人たちのどこからも返ってこない。

 どうやら誰も答えを持っていないようだ。

 けれどアキヒサはなにか、すごくマズいことが起きている気がしてならない。

 アキヒサがとりあえず突然現れたように見える建造物を確認しに行こうと、そちらに向かって歩いていると。


「あ、レイ!」


なんと、向こうからシロを抱っこしているレイが駆けてきていた。


「アン!」


「……!」


レイはアキヒサを見つけると突撃してきて、アキヒサの足にピトッとくっつく。


「どうした? レイ」


アキヒサがシロごとレイを抱き上げてやると、両手と両足を使ってムギュっと捕まってきて、アキヒサとレイに挟まれそうになったシロが慌てて脱出して、アキヒサの頭の上によじ登った。


 ――レイ、それだとまるっきりセミみたいだよ。


 再びのセミ状態なレイに、アキヒサは「どうしたんだろう?」と思いつつも背中をポンポンと叩く。

 見たところ特に怪我をしているわけでもなさそうだし、アキヒサと離れての行動は初めてだったのが、寂しくなったのか?

 というか、レイと一緒なはずのリュウはどこに行ったのだろう?


「レイ、リュウさんはどこにいるの?」


アキヒサがそう尋ねると、レイはしがみ付いた状態でモゾモゾとしてから、頭だけ動かして渋ぅ~い顔であの建造物を見る。


「あの、高い建物にいるの?」


アキヒサが尋ねると、レイはコックリと頷く。


「ニョキニョキして、上に行った」


レイは説明しているようだが、その説明が非常に謎だ。


 ――ニョキニョキって、そんな植物が生えたんじゃないんだから……。


 首を捻りながら移動するが、ちなみに今アキヒサたちがいるのは、アイカ村の中でも山賊被害が酷かったエリアだ。

 ここから山賊が入り込んできたらしくて、まさにやりたい放題という感じであった。

 家屋が壊されているものの形は残っていて、暮らせないこともない家もあれば、火をつけられて燃えてしまった家もある。

 ゴルドー山の麓という立地から林業が盛んなこともあり、家屋が木造であったのが、損壊が酷くなった理由と言えるだろう。

 その代わり、木材が豊富なので建て直しも容易であるというメリットもあるのだが。

 けれど、家とはそんなにすぐに建つものではない。木材が豊富でも、それを使って家を建てる大工たちが修復や再建にてんてこ舞いで、人手が全く足りていないという問題が挙がっていた。

 今は魔物問題が解決し、他の街や村から大工を呼び寄せることができるだろうから、これから状況が少しはマシになるだろうけれど。

 家が壊れた人たちは、家の形が少しでも残っていたら、なんとか工夫して住んでいるが、全く住めそうにない人たちは、誰かの家にお世話になったり、野宿をして家の再建を待つしかない。

 そんな場所に突如建ったのが、この謎の建物だ。

 アキヒサは間近で見て「う~ん」と唸る。


「これって、タワマンだよな?」


そう、近くで見るとこの謎の建造物がタワマン――タワーマンションに見えるのだ。

 アパートだったら、ニケロの街でも木造のものがあったので、田舎の村だと珍しいだろうが、別段不思議なものではない。そんなアパートとこのタワマンが違うことは、この世界では異質だけど、アキヒサには見慣れている鉄筋コンクリート製っぽく見えることだろうか?

 その鉄筋コンクリート製のタワマンの上から、なにかが落ちてきた。


 ――って、リュウさんじゃないか!


 タワマンの上から落ちているリュウは、あわや地面とぶつかるかというところで落ちる途中でスピードが落ち、やがてふわりと着地した。

 着地の仕方がどういう現象なのか謎だが、スキル的なものか、はたまたドラゴンの身体能力だろうとアキヒサは推測する。

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