第121話 再びの祭り

とはいえ、ふりかけはともかくとして、佃煮はプロの料理人の意見が欲しいところだ。

 だからこちらは「とまり木亭」で相談することにして、アキヒサがここで作るのはふりかけにしようと思う。

 そしてふりかけの材料として、アキヒサは運んできた補給物資の中にアテがあった。

 実は物資にはけっこうな量の野菜のカブが入っていて、そのカブの白い部分は、スープにおかずにと活躍しているのだが、葉っぱ部分がどうにもあまり人気がないらしいのだ。

 これはアイカ村独自の傾向ではなく、ニケロの街でもそうだった。

 特に子どもにとっては、カブの葉の青臭さが気になるみたいだ。


 ――大人になったらアレが美味しく感じるようになるんだけどねぇ。


 それで結果としてカブの葉だけが余ってしまって、腐って捨ててしまう羽目になると言う悪循環に陥るのが、カブの運命なのだそうだ。

 ちなみにこの現象は、大根でも起きがちのようである。

 だったらそんな可哀想なカブの葉を、ふりかけに変身させてやろうじゃないか!

 なにせ葉っぱふりかけは、施設でよく作られていたので馴染み深いのだ。

 というわけで、アキヒサは広場の片隅での作業となった。

 まず大量のカブの葉を貰ってきて、それを大鍋で湯通しすると、湯から上げた葉を絞ったらみじん切りにする。

 みじん切りを、最初はアキヒサが自分でナイフで切っていたのだが、途中でふと「『粉砕』スキルでいけるかな?」と思いついてしまう。

 そしてコッソリと試してみると、なんとできてしまった。

 みじん切りのイメージで『粉砕』をすると、ちゃんとみじん切りになるなんて、料理スキルとは本当に便利なスキルだ。

 おかげで作業の時短になって万々歳である。

 こうしてできたみじん切りの葉に少々の塩をふって、馴染ませたら出てくる水気をもう一度絞る。

 こうすると、青臭さがずいぶん抜けるのだ。

 この状態でもご飯に混ぜたら十分美味しいのだが、保存の事を考えてもっとカラカラにするべく鍋で炒っていく。

 夏ならその都度作った方がいいだろうが、涼しい時期だとこうすることで作り置きができる。

 炒ったことであんなに大量にあったカブの葉は、嵩が激減している。

 なので、嵩張るカブの葉の置き場所問題の解決にもなるはずだ。

 アキヒサは早速味見をしようと、手持ちの麦ご飯にこのカブの葉ふりかけを混ぜて、小さいサイズのおにぎりにする。


「うん、美味しい!」


味はバッチリだが、果たして子どもの口に合うものか。

 それを試すため、レイを探しに行こうと思っていると。


「トツギさんそれはなんですか?」


遠目にアキヒサの作業を伺っていたモーリスが近付いてきて、木の器にこんもりと盛られているふりかけを覗き込んでいる。


「カブの葉が余っていると聞いて、ちょっと加工してみたんです……試食しますか?」


「いいんですかっ!?」


アキヒサが最後に勧めると前のめりに頷かれたので、レイに食べてもらおうと作っていた小さめのおにぎりを一個、モーリスに渡す。


「その小さな緑色が、カブの葉をみじん切りにしてからカラカラに炒ったものです」


「うん!? 美味しいし、不思議な口触りですな!

 それに独特の青味もあまり感じない!」


アキヒサの説明を聞きながらおにぎりを一口で頬張ったモーリスが、ふりかけの食感と香りに驚く。


「もちろん、カブの葉の栄養もとれますよ」


「ふおぉ!? これは子どもたちでも食べるのではないですかな!?

 なにしろウチも子どもの好き嫌いには苦労しましたし、どの家庭でも同じですよ。

 それが、こりゃあまさに救世主だ!」


「そうですね、僕も子どもたちの口に合うかと思って、作ってみました」


アキヒサはモーリスの興奮ぶりに苦笑する。

 大げさな反応のように見えるが、無理もないだろう。

 もしこれが現代日本だったら、多少の好き嫌いをしたところで他の食物で栄養を補える。

 けれどリンク村やアイカ村のように手に入る食べ物が限られる状況だと、好き嫌いは下手をすると命に係わるのだ。

 ふりかけが受け入れられそうで、ホッとしていると。


 ワアッ……!


 村外れの方から声がした。


 ――なんかあったのか?


 アキヒサは不思議に思って首を巡らせる。

 それにそういえば、リュウとレイはどこまで行ったのだろうか?

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