第120話 ドラゴン退場
今回のことをどう話したものかと、アキヒサは事前に考えた。
馬鹿正直に「ドラゴン型生体兵器が水浴びをしていました」と言えるわけがない。
そんなことを話せば「生体兵器」という物騒な単語に過剰反応して、パニックを起こすだけだろう。
アキヒサはうっすらと察していたのだが、生体兵器の存在は今現在この世界の人たちに知られていないのだそうだ。
けど、生体兵器たちはそんな世界に紛れて暮らしているようで。
『ワシも、どいつがどこにおるのやら、知らぬわ』
とのリュウの言葉であった。
なので今回のゴルドー山の騒動のことをどう説明するかと考えたのが、この「ドラゴンがいましたが、飛んで行ってもういません」という言い訳だ。
なにせ真実から「生体兵器」の部分を抜いただけなので、まるっきりの嘘ではない。
さらに、ドラゴンがどこかに行ったという証明のために、わざわざリュウに飛んでもらったのである。
ドラゴン姿で飛んで行ってもらって、人の姿で戻ってきてここにいるわけだ。
アキヒサらとしてはそのまま移動してもらって構わなかったのだが、リュウは何故か戻ってきてしまったのである。
でもモーリスやトム少年の様子だと、飛んだのがニケロの街方面だったから、アイカ村からだとドラゴンが見えにくかったのかもしれない。
「そもそもドラゴンというのは知能が高く、無益なことはしない生き物らしいです。
だからたまたまゴルドー山に遊びに来ただけなんじゃないですかね?」
アキヒサはリュウから聞いたドラゴン事情を挟みつつ、そう話す。
アキヒサ的には、ドラゴンとは凶悪なラスボスで、財宝の番人 (いや、番竜か?)というイメージだ。
それに冒険者ギルドでも、ドラゴンは災厄の生き物だと教えられている。
だがリュウ曰く、ドラゴンは賢くて穏やかな性格の平和主義者なんだとか。
その一方で光りモノが大好きで、自分の巣に集めて大事に仕舞っている。
そのコレクションにちょっかいを出されると、一転して狂暴になるんだそうな。
『人間どもが見るドラゴンとは、自分らがコレクションに手を出した際の姿であるのがほとんどであろう?
だからドラゴンは狂暴だ、などという説がまかり通るのだ』
とのリュウの意見だった。
なるほど、そうかもしれない。
「そうですか、ドラゴンのせいでしたか」
モーリスは「全部ドラゴンが原因」という説明に納得してくれたようだ。
むしろドラゴンが出たのに、村に直接の被害が出なくてよかったと、ホッとしている。
――う~ん、こうしてドラゴンのデマ被害が拡大するんだろうなぁ。
なんだか、ドラゴンに謝りたくなってきたアキヒサである。
しかしそれは心の中でやることにして、今は話を進めてしまう。
「ドラゴンがいなくなれば、魔物もゴルドー山に帰るでしょうね。
しばらく待てば、以前の状態に戻るんじゃないですか?」
今はむしろリュウがここにいるから、魔物も獣も慌ててゴルドー山に逃げていることだろう。
彼らもリュウに振り回されただけという、全方面で残念な事情だ。
「そうですかっ!」
モーリスは喜色満面といった様子だ。
ゴルドー山の問題が本当に解決しているかどうかは、冒険者ギルドが正式な調査をして安全宣言をだしてもらう必要があって、それから封鎖が解けるという話だ。
「それでも私たちは、安心材料ができただけでも目出度い!」
ということで、アイカ村では再びの祭りとなった。
ちょうど麦ご飯を炊いていたので、麦ご飯祭りである。
広場では、複数の大鍋で大量に炊かれている麦ご飯のいい匂いがしていた。
――僕もせっかくだし、なにか作ろうかな。
ご飯の国の人として、ご飯文化をより深く知ってもらう機会を逃してはならないだろう。
ご飯料理の王道である丼ものは、前にモーリスに食べてもらったが、ご飯といえばふりかけも外せない。
あと佃煮もアリだ。
思い付いたら食べたくなってきたアキヒサである。
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