第119話 レイの成長
リュウの行動が気になるところだが、かといってアキヒサが一緒にいたところで、彼をどうこうできるわけではないことも事実だ。
それでも一応リュウを追いかけるか、だが早くモーリスに報告して安心させてやりたいしと、アキヒサが迷っていると。
ポンポン!
アキヒサの足をレイが叩いた。
「どうした? レイ。お腹空いた?」
アキヒサが聞いてみると、レイはフルフルと首を横に振り、リュウが行った方を指さす。
「みとく」
そしてそう言ってきた。
――これは……
「もしかして、レイがリュウさんを見張っててくれるのかい?」
「ん!」
アキヒサが確認すると、レイは胸を張ってこっくりと頷く。
なるほど、リュウをどうにかできるのは今のところレイだけだ。
そしてレイは、少なくとも現時点でリュウよりも人の常識を知っている。
しかもしかも、レイが自らアキヒサとの別行動を申し出るなんて、初めてじゃないだろうか?
――前に別行動をしようとしたら、ギャン泣きして嫌がったのに……!
これは、レイの成長の瞬間である。
いや、レイ的にはリュウを放置するのが危険だという認識なのだろう。
なにせレイは、まだリュウのアキヒサに対するおイタを許していないのだ。
リュウをマークしておいて、変な事をしようとしたらサクッとヤッてしまおうという考えがあったらどうしようか?
それはそれで物騒だ。
けれど、この状況は色々な意味でいいチャンスである。
アキヒサは姿勢を正して、「エッヘン!」と咳ばらいをした。
「じゃあレイくん、君に任務を与えよう。
リュウさんを見張って、もし村の人に危ないことをしようとしたら、被害が出る前に速やかに止めるように!」
「ん!」
レイはニケロの街で覚えたらしい兵士の真似をしてビシィッ! と敬礼してみせると、ポテポテとリュウを追いかけて行った。
――ああ、あの後ろ姿に僕は感動している……!
ちなみにリュウが怖いシロは、アキヒサの懐から出てこなかった。
こんな場面があったものの、アキヒサは広場に向かい無事にモーリスに会えた。
「トツギさん、ご無事でよかった! どうですか? なにか分かりましたかっ!?」
モーリスはアキヒサを見るなり駆け寄ってきて、食い気味に尋ねる。
「落ち着いてください、順番に説明しますから」
アキヒサは苦笑しつつ、ここで話をすると邪魔になりそうだということで、火を焚いて大釜を熱している広場から離れることにする。
「ところで、なにをしているんですか?」
アキヒサは大釜の様子を見守る村人たちを見ながら、モーリスに尋ねる。
するとモーリスは笑顔で答えた。
「あれは、大麦を炊いているんです。
大麦を口にすることに対して抵抗のある者もおりますが、空腹をなんとかする方が先ですからな」
なので早速飼料小屋から大麦を移動させて、炊いて試食してみようとなったらしい。
「まあ、家畜の餌だと思っているのを食べるのって、確かに勇気がいるかもしれませんね」
アキヒサもその意見に頷く。
日本だと、元々そういう雑穀を食べる文化があったために抵抗がないが、小麦しか食べない文化に育つと、かなりの意識改革が必要かもしれない。
そんな中で、率先して大麦ご飯作りに協力してくれるのが、母親たちだそうで。
「見栄を張るより、子どもにお腹いっぱいに食べさせてやりたい」
皆そう口をそろえて言うそうだ。
――うーん、異世界でも母は強し、だなぁ。
生憎とアキヒサには「母」という固有の人物の記憶がないが、アキヒサたち施設育ちにとっての「母のような人」はいた。
それは年上の大きなお姉さんだったり、施設の管理をする怖いおばさんだったりする。
もちろん「父のような人」もいた。
そんな昔語りはともかくとして、まずは話し合いだ。
二人で広場が見えるベンチに座って、モーリスに告げる。
「実はですね、ゴルドー山の山頂にドラゴンがいたんですが……」
「なんですとっ!?」
アキヒサがサクッと言った結論の途中で、モーリスが顔色を変えて立ち上がる。
「なんという、なんということだ!?
ああ、では国に連絡して討伐隊を派遣してもらう必要がある。
しかし、きっとすぐには来ないだろうし、そうなると冒険者ギルドに……」
モーリスがアワアワとその場をグルグルと回り出す。
――うーん、話の出だしを間違えたかな?
「モーリスさんモーリスさん、落ち着いて最後まで話を聞きましょう。
ドラゴンはいました、けれど過去形です。つまり、飛んでどこかに去ってしまって、もういません」
アキヒサはモーリスを落ち着かせるように肩を叩き、そう説明する。
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