第118話 戻りました

アキヒサたちはそんな大騒ぎをしつつ、ようやく村が見える所まで下りてきた。


「ところで、リュウさんが知っている集落って、どんな風だったんですか?」


気になったアキヒサが聞いてみると、リュウは「うん?」と立ち止まる。


「そうだのぅ、ワシが造られた頃は高い塔がそびえ立ち、夜でも昼間のように明るい場所であったぞ。

 マスターが隠れられてから千年ほど寝ていたたらそれらが全てなくなり、穴倉の家になっているのには驚いたがな」


なんとも極端な回答が返ってきた。


 ――え、なにその文明の逆回転現象?


 まるで現代東京から縄文時代にタイムスリップしたみたいである。

 その千年でなにがあったのか、アキヒサは非常に気になるところだ。

 ならばアキヒサには文明レベルが少々物足りない今のこの世界は、その縄文時代状態からここまで回復したということだろうか?

 そうなると、この世界に放り出された時に地図機能の更新に時間がかかったのも頷ける。

 近代都市が一旦消えての穴倉生活でリスタートとなると、地図だって「どの時代の地図ですか?」と言いたくなるだろう。

 それにあのコンピューターは、ドラゴンよりももっと古いままの時代で、世界情勢を把握していたのだろう。

 道理でコンピューターの「当たり前」が少々ズレているはずである。


「じゃあその千年で、スキルを使わなくなったとかですかね?」


「さてな、スキルシステムがダウンしているのやもしれん」


アキヒサの問いに、リュウはそう言って首を横に振る。

 そんな会話をしながら歩いて、やがてアイカ村へ到着した。


「あ! 兄ちゃん帰ってきた! おぉ~い!」


アイカ村の入口をウロウロしていたトム少年がアキヒサたちに気付いたようで、大きく手を振りながら、こちらに駆け寄ってくる。


「もう! もう一回山に行ったって後から聞いて、心配したんだからな!」


プンプン顔なトム少年は、本当に心配してくれた様子だ。

 アキヒサはゴルドー山の調査に行くってことを、一部の村人にしか伝えていなかった。

 なにせ今のゴルドー山は立ち入り禁止区域になっているので、堂々と向かうわけにはいかないのだ。

 だからトム少年は、アキヒサがいなくなってから聞かされたのだろう。


「あんなスゲェ声の魔物がいるんだから、兄ちゃんたちだってガブッと丸かじりされちゃうかもだろう!?」


そう言いながらアキヒサをポカポカと叩いて来るトム少年だが、その声の正体が今アキヒサの後ろにいるのである。


「ワシは人間なんぞ食わんぞ、見るからに大して美味くもなさそうなのに」


リュウさんが不満そうに小さく零す。


 ――そりゃそうだよな。


 そもそもリュウには食事が必要ないのだから、わざわざ人間を選んで食べる意味なんてないだろう。

 それに確かに、イビルボアやアーマーバッファローなどと比べると、人間は食いでがないとは思う。

 トム少年はこの発言内容が聞こえなかったらしいが、アキヒサの後ろにいる人影にようやく意識が向いたらしい。


「あれ? また誰か来たの?」


「うん、たまたまそこで行き会ってね。近くの村を聞かれたから、一緒に来たんだ」


「……」


目を丸くするトム少年にアキヒサが用意しておいた言い訳を述べると、リュウがローブの中から無言でトム少年を見下ろしている。

 リュウは、トム少年は魔物ではないのだから威圧しようとしなくてよろしい。

 なにはともあれ、戻ってきたらまず村長のモーリスに報告だ。

 もう安心なことを告げて早く安心させてやりたい。


「ねえトムくん、モーリスさんがどこにいるのか知ってる?」


「ああ、広場だろ? たぶん。

 なにしてんのかわかんねぇけど、母ちゃんたちと大鍋でなにか作ってた」


なるほど、モーリスは広場で作業中であるらしい。


「じゃあ報告はそっちに行ってみるよ」


というわけで、アキヒサたちは広場に足を向けようとしたのだが。


「お、あれはなんじゃ?」


まさにその瞬間、リュウがフラッと違う方に歩いて行こうとする。


「あ、リュウさん! 一人で行ったら危ない……」


「平気じゃ、誰もワシを傷付けるなんぞできるものか」


アキヒサの制止を、しかしリュウが振り切ってスタスタと歩いていく。


 ――いやいやいや!?


 アキヒサとしてはリュウの危険の心配ではなく、リュウが起こす危険の心配をしているのである。

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