第117話 ドラゴン襲来

食事を食べ終えてお腹いっぱいになったところで、アキヒサは青年ドラゴンから改めて尋ねられた。


「で、お前たちは何用でここへ来たのだ?

 水浴びか?

 ここの湖は魔素が濃いゆえ、浸かると心地よいのだ」


青年ドラゴンが、温泉の湯治に来たおじいちゃんみたいなことを言っているが、彼の目的は湖での水浴びだったらしい。


「でも、小僧がどうのとか言ってませんでした?」


アキヒサは覚えていたやり取りを口にすると、青年ドラゴンが「ああ、それか」とつまらなそうに呟く。


「我がねぐらにしておった山までわざわざ来て、鬼神復活だけしからんだのとやいのやいのと煩い輩がいてな。

 あんまり煩いので一度あ奴の言う方へ行ってみるかと思い立ち、どうせならばとこの湖を目指したまでよ」


そう説明した青年ドラゴンはどうやら湖が気持ちよくて、そもそもの目的を忘れかけていたようだ。

 アキヒサはその小僧というのが誰なのか気になるが、まずはドラゴンに問われたことに答える。


「実はですね……」


アキヒサは周辺の魔物が青年ドラゴンを恐れて移動し、近くにある人間の集落が被害を被っていることを説明する。


「ふぬぅ、昔はこのあたりはなにもなかったのだが、今では人間が住んでおるとは知らなんだ」


青年ドラゴンは「うっかりしていた」みたいな言い方をしたが、生体兵器の言う昔とはどのくらい前のことなんだろうか? と気になるところだ。


「それで、すっごい鳴き声っていうか、咆哮が聞こえたんで、何事だろうってことで、こうして様子見にきたんです」


「咆哮とな……知らんのぅ、いつのことじゃ? それは」


アキヒサの言葉に、青年ドラゴンが首を傾げている。


 ――え、アナタのものだったんじゃないんですか?


 もしこれで人違い……魔物違い、いや、生体兵器違い? だったとしたら、振り出しに戻ることになるのだが。


「四日前の夜かな、すごくビリビリ響いてた」


アキヒサがドキドキしながら説明すると、青年ドラゴンが「四日前?」と呟く。


「おお、思い出した!

 寝ぼけてうっかり岩盤を割って落ちたな。

 その際に驚いて吠えたかもしれない」


「スッキリ!」と言わんばかりの表情な青年ドラゴンだが、寝ぼけてベッドから落ちたみたいなことだろうか?

 寝ぼけたスケールがデカすぎだろう。

 まさかあの恐怖の声が寝ぼけ声だったとは、事実を知るとなんともマヌケである。



なにはともあれ、原因が分かったのでアキヒサたちは山を下りることにした。

 ……のだけれども。


「ほう、あれが人間の集落か。

 ワシが知るのとはずいぶん様子が違っておるのぅ」


現在、アキヒサたちより前をずんずんと進み、木々が途切れた隙間からアイカ村を見下ろしている青年ドラゴンがいる。

 そう、この青年ドラゴンが何故かついて来てしまったのである。

 「人間の集落が見てみたい」などと言って。

 なんでも今までずぅーっと山奥に引き籠っていたので、人間を見るのは久しぶりなのだとか。

 ドラゴンの久しぶりのスパンがどのくらいか謎である。

 しかしまず同行するにあたっての問題は、この青年ドラゴンがマッパなことだった。

 人里に下りるのにそれは駄目だろうということで、急遽アキヒサの服を着せてある。

 そして誰かと遭遇した時に「ねえドラゴンさん」なんて呼び掛けるわけにもいかないので、ドラゴンを和名に変えて「リュウ」と呼ぶことにした。

 するとこの名前が、どういう理屈でか世界から名前として認識されてしまったようで、鑑定で名無しだった欄に「リュウ」と載ってしまったのだ。


 ――ヤバい、レイはともかくよその生体兵器に名前をつけちゃったよ。


 これは後々になにか影響があったりするのだろうか?

 そんな青年ドラゴン改め、リュウの移動による魔物たちの慌てっぷりもすごかった。

 探索スキルで様子を見ていると、右往左往しているのが丸わかりで、山の中が非常に騒がしい。

 リュウを連れて歩いているアキヒサの方が、いっそ申し訳なくなってくる。

 レイも情けをかけたのか、そんな魔物たちを追いかけて行ったりしない。

 状況はアレだが、レイが優しさを手に入れたことには変わりなく、それはいいことだと褒めてやったアキヒサであった。

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