第116話 美味しいことはいいことだ
アキヒサはそこを気にされると思わなかったので、きょとんとしてしまう。
「あ、はい。
育児書にも『名前をつけてあげましょう』ってあったんでつけたんですけど、これも普通なら変なんですか?」
それとも名前にはなにか生体兵器のルールとか、しきたりがあったりしたのだろうか?
急に不安になったアキヒサに、しかし青年ドラゴンは「いや」と首を横に振った。
「駄目なことはないぞ?
ただ、今までそんなことをする者がいなかっただけだ。
我らの個体認識に使われるのはナンバーか、もしくは固有のスキル名だな」
なるほど、レイだと「No.03」もしくは「鬼神」が、名前の代わりだったわけだ。
「だが、あれほど手の付けられん暴れ者だった鬼神が、これほど大人しいとは、驚きだな」
青年ドラゴンは、無心に三色丼をモグモグしているレイを見て感心している。
――うーん、レイは最初から大人しかったんだけどなぁ?
こうまで言われると、初期化前のレイがどんな人間、いや生体兵器だったのか気になる。
もしかして、人格設定みたいなものが、前と今とじゃ真逆なのだろうか?
例えばゲームなんかでキャラを作るとして、アキヒサがもしガチャで「鬼神」なんていう中二病的な能力を手に入れたなら、そのキャラを鬼神っぽいヤンチャな性格設定にしてしまいそうに思える。
青年ドラゴンが言うところの「マスター」とやらも、同じことをしてしまったのではないだろうか?
ヤンチャ設定と鬼神スキルが予想外に相乗効果を発揮したのか?
そして挙句には手の付けられない暴れん坊になってしまって……ありそうな気がしてきた。
その反省を生かして今度は無口キャラにして今のレイがいると、そういうわけなのか?
――まあ、そのあたりの事情はどうでもいいけどね、今のレイが可愛いことに変わりないしな!
アキヒサは一人うんうんと頷く。
そんな前のレイについての考察はともかくとして。
いつの間にかレイが三色丼を完食しそうになっているし、アキヒサも食べることにする。
「うん、美味しい!」
スクランブルエッグが思ったよりもトロトロに出来てる。
それにしても不思議なのが、アキヒサの日本での料理の腕はそれほど良かったわけではない。
なのに今のアキヒサは料理の完成度が結構高めで、失敗をしない。これも、料理スキルのおかげなのだろうか?
そうだとしたら、料理スキルが衣食住の食を支えてくれてると言っても過言ではない。
―― ありがとう、料理スキル!
一方で青年ドラゴンの方はというと。
「ふむ、これが人間の食事か」
アキヒサたちが食べる様子を見て、青年ドラゴンが慣れない手つきでスプーンを握り、三色丼をすくって口に運ぶ。
そしてカッと目を見開いて、ゴクッと飲み込む。
「ほう、白い粒と黄色と茶色が絡み合って、次第に調和していく様は、まるで世界の体現である!
これはなんと奥深きことか……」
なんだか壮大な食レポをされたが、どうやらキャベツの千切りは避けたらしい。
野菜も美味しいし、好き嫌いは良くない。
ドラゴンなので肉好きなのだろうか?
貴重な宝物であるかのように、三色丼を捧げ持つ青年ドラゴンを、アキヒサの膝の上のレイがチラッと見ると。
「それ、おいしい」
そしてボソッと呟く。
「うん? なんじゃ?
なんぞ文句があるのか?」
レイが自分に向けてなにか言ったと察知した青年ドラゴンが、ギロッと睨む。
三歳児に喧嘩腰の青年は、傍から見て大人げない。
しかし、レイが言いたいのは文句ではないようだ。
「そうだねレイ、ドラゴンさんが言うみたいなのを、『美味しい』って言うんだよね」
「ん」
レイは、青年ドラゴンに「美味しい」を教えたかったようだ。
レイが誰かになにかを教えたがるなんて、成長を感じてジーンとしてしまうアキヒサである。
「ぐぬぅ、あの鬼神がワシに教えを授けようとは……」
一方の青年ドラゴンは、レイから教えられるという行為が気に食わなかったようだ。
なんだろう、生体兵器は確か欠番のNo.01を含めても九体しかいない中で、この青年ドラゴンは一番古いはずなのだが、案外子供っぽいところがあるようだ。
レイの方は、三色丼をを食べたら気持ちが落ち着いたのか、青年ドラゴンをスルーしてお代わりを所望してくる。
食欲旺盛なのは健康な証拠だ。
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