第115話 変身ドラゴン

突然現れた青年にびっくりするが、冷静になれば簡単なことだ。

 ドラゴンが消えて青年が現れたということは……


「え、あの、ドラゴンさんですか?」


「いかにも」


アキヒサの確認に、青年になったドラゴンが頷く。


 ――なるほど、人の姿になれたのか!


 おかげで色々な謎が解けた。


 この山頂の洞窟の道は、とてもじゃないがあのドラゴンの巨体が通れるような広さはなかった。

 なのに、ドラゴンはどうやってこの湖にたどり着いたのか?

 なんのことはない、この人の姿で歩いてここまで降りてきたのだ。

 それにゴルドー山にドラゴンが飛んで行ったという目撃談も、ニケロの街でもアイカ村でも聞いていない。

 ドラゴンがこの山にやってきた際も、あの巨体でやって来たのではないのだろう。


「あの、とりあえずこのローブを着てください」


アキヒサは鞄から取り出したローブを、青年ドラゴンに差し出す。

 マッパでうろつかれるとレイの教育に良くない。

 それに、もしかしてドラゴンの目撃談はなくても、マッパの青年の目撃談はあったりしないのだろうか?

 それはともかくとして。

 一人―― 一匹? 増えたところで、昼食を作ることにした。

 けれどなにを作ろうか? とアキヒサは迷う。

 すごく心配してくれたレイのために、テンションが上がるメニューにしてやりたい。

 そしてレイは卵料理と肉が好きだ。

 でも親子丼ばかりというのもマンネリになるだろう。


 ――あ、だったら卵と肉と野菜で、三色丼を作るかな?


 メニューが決まれば、早速材料を取り出す。

 肉は牛丼用のストックでいいとして、卵はフワフワのスクランブルエッグを作ることにした。

 スクランブルエッグをフワフワにするためには、フライパンの火加減がコツだ。

 溶き卵をゆっくり混ぜながら弱火で焦らずじっくり火を通して、余熱で熱しすぎないようにすぐに皿に取り出す。

 それとキャベツを千切りにして、三つをバランスよく麦ご飯の上にのせれば、三色丼の完成だ。

 レイをお腹にくっつけたまま料理するのは、なかなかに骨が折れた。


「ほぅらレイ、お昼ご飯ができたぞ?

 僕の膝の上に座ったままでいいから、ちょっとクルッとして前を向こうか」


アキヒサはレイのつむじをツンツンしながら話しかける。


「……」


レイは「ご飯」という単語に反応して、そろりと顔を上げた。


 ――ああ、泣き過ぎて目元が腫れてるよ。


 きっとヒリヒリして痛いだろうと、アキヒサは治癒の魔術で腫れを治してやる。

 するとレイがモゾモゾとお尻を動かして、アキヒサの膝の上で前向きに座り直す。

 よかった、どうやら食事をする気になるくらいには気分が回復したみたいだ。


「レイ、レイが好きな卵と肉をのっけたどんぶりだぞ?」


「たまごとおにく」


三色丼を手に持たせてやると、レイの目がキランと輝く。


 ――うんうん、レイはそういう顔をしている方がいいよ!


 そしてレイは、アキヒサの膝の上で小さく「いただきます」をしてから、三色丼にスプーンを刺してすくう。

 卵と牛肉と千切りキャベツを上手にスプーンに乗っけるなんて、通である。

 そしてあーんと口に頬張ると、「うむ」と言いたげに頷き、またスプーンを動かす。

 どうやらレイのお気に召したようだ。

 その様子を、青年ドラゴンが不思議そうに見ている。


「あなたもどうぞ、レイの好物を合わせたものです」


「……先程から気になっておったのだがのぅ。

 レイというのは、鬼神のことか?」


どうやら、「レイ」という名前が気になったらしい。

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