第113話 スキルと食事

ドラゴンから聞いた話はためになった。

 とりあえず真っ先に、鑑定を弾く設定をどうすればいいのかを、出来れば教えてほしいものだ。

 そうしないと鑑定スキル持ちが誰のステータスも見ることができるのは、アキヒサでもガイルやブリュネなどの高ランク者を見られるからわかる。

 あのタブレットでは「生体兵器」関連などの言葉は文字化けしていたが、鑑定スキル持ちには見えるかもしれない。

 レイがうっかり鑑定で誰かに見られて、「生体兵器」ということが知られたら面倒だ。


 ――あ、でも前に教会の人からの覗き見を防いだな。


 アレは結局どうしてだったんだろう? 教えを乞う相手がいるうちに疑問を解消しようと、アキヒサはドラゴンに聞いてみた。


「あのですね、前に観察というスキルを持つ人からの覗き見を防いだっぽいんですけど、それってどういう理屈なんですかね?」


これに、ドラゴンはきょとんとした顔をして答えてくる。


「ああ、観察か。

 アレは鑑定の粗悪品のようなスキルで、鑑定と違い自分のレベル相応のものしか調べられんから、レベルが低ければほとんど役に立たん。

 お前たちは最大値のスキルを持っておるだろう?

 大方高レベルスキルの読み込みに失敗したのだろうよ。

 持ち主には相手のレベルは見えずとも、観察スキルには認識されるからな」


尻尾をユラユラとしながら、ドラゴンが解説してくれた。

 観察スキルとはやはり鑑定で教えられた通り、正しく鑑定の下位互換だったのか。

 そしてあの教会の人のレベルが低いのが原因だったということか。

 もしかすると観察スキル持ちでもレベルが高い人ならば、なにがしかの情報を見ることができたのかもしれないが、あの時の司祭が特別ポンコツだったのか、そもそもレベルの高い観察スキル持ちなんていないのか、そのあたりはわからない。

 それでも今後の事を考えて、なにがしかの対策は必要だろう。

 ちなみにドラゴンとそんな会話をしている間、レイはアキヒサのお腹のあたりにべったりと貼りついたまま、一ミリも離れない。

 どうもちょっとでも離れた隙に、アキヒサが死にかけてしまうとでも思っているようだ。

 心配させたのは間違いないので、レイの気が済むまでこうしておくしかない。

 ちなみにシロは、再びアキヒサの服の中である。

 それにしても、なんだかんだで時間が経っているのでお腹が空いた気がする。

 思えばレイは大暴れしてからの大泣きで、水分を大分消費したのではないだろうか?


「レイ、お腹が空かないか?

 ここでお昼ご飯を食べちゃおうか?

 時間もちょうど頃合いだし」


アキヒサはレイの背中を撫でながら、話しかける。


「……ごはん」


するとアキヒサのお腹にレイのくぐもった声が響いた。どうやら食べるらしい。

 となると竈を造って料理したいところだが、一応ドラゴンにお伺いを立てておかなければならないだろう。


「あの、ちょっとここの隅っこを貸してもらっていいですか?

 食事の用意をしたいので」


「まあ構わんがのぅ。

 なんじゃ、鬼神は食事なんぞするのか?」


ドラゴンが目を真ん丸にして、アキヒサにお腹に貼り付くレイを見る。


 ――あれ、変な事を珍しがられたぞ?


「ひょっとしてあなたは食べないんですか?」


アキヒサが尋ねるのに、ドラゴンが頷く。


「ああ、ワシらは世界に満ちる魔素を糧にしておるでな、必要ないんじゃ」


この答えには、なるほど納得である。

 確かにこの巨体を維持する食事量を想像すると、この山程度の生態系だと数日ではげ山になっていそうだ。


「必要ないってことは、機能的には食べられるんですか?」


「そうじゃな。

 どんなものにも魔素はあるゆえに、食事は無意味ではないぞ。

 あくまで趣味というものか?

 だが試すことはそうそうない。

 鬼神とて、食事なんぞ食べていなかったように思うが」


アキヒサの疑問に、ドラゴンはそう言って「アフ」とあくびをする。

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