第109話 ちょっと待った!
「グウゥ!」
レイのキックとパンチで、ドラゴンは再び湖に沈む。
しかしそれでもレイは止まらず、ドラゴンへの攻撃が続く。
「これ、まずはワシの質問に答えぬか!
全く、相も変わらず他者の話を聞かぬヤツだな!」
しかしそんなレイの猛攻をものともせず、ドラゴンがまたまたザッパーンと湖に立ち上がる。
――おいおい、レイのその名の通りの一撃必殺を何度も受けているのに、凄いタフだな!?
レイの攻撃を受けて立ち上がった相手を初めて見るアキヒサは、驚愕の一言しかない。
ドラゴンだから特別なのだろうか?
けれどそのドラゴンはどうやらレイのことを知っていても、初期化されて中身が0歳児なのは知らないみたいだ。
それにしてもあのドラゴンは、レイに対してあちらから攻撃を仕掛ける様子がない。
これは一体どういうことだろう?
――攻撃の意思がないってことか?
それにしては、アキヒサは尻尾攻撃をくらってしまったわけだが。
アキヒサがドラゴンの態度の真意について考えていると。
「……って、あれ?」
アキヒサの視界を、赤い色がかすかに掠めた。
ドラゴンは茶色いし、レイの服装にも赤い色はなかったはずだ。
ならあの赤は一体なんの色だろう? とアキヒサは不思議に思ってじっと観察していて、驚きの事実を見つけてしまう。
――あれって、血!?
よく見たら、レイの拳から血が出ているではないか。
これまで魔物相手に生身で殴る蹴るをしても無傷だったレイなのに、あのドラゴンは固過ぎたのだろうか?
とにかく、怪我が酷くなる前にレイを止めなければならない。
「レイ、やめるんだ」
アキヒサは静止の声を上げるものの、まだ回復が追い付かないのか、さっきよりはマシとはいえ大声にならない。
となると、実力行使で止める入るしかないのだが、アキヒサはあの両者に「待った!」と割って入るのは、素直に怖い。
けれど早くしないと、レイの怪我が酷くなってしまう。
――えぇい、どうにかなる!
「氷結!」
アキヒサはまず、レイに魔術を放つ。
「……!?」
レイの身体を氷の塊が包み、レイが驚いたように動きを止めた。
そしてそのまま湖に向かって落下して、ドラゴンの背中にポテンと転がる。
「もうひとつ、氷結!」
そして次に湖を凍らせた。
湖は広いが、元々ある水を凍らせるだけだと、ゼロから氷を作るよりも魔力を食わないのである。
「なんじゃあ?」
凍った湖に動きを止められたドラゴンが、呆けた声を出す。
その背中で、氷だるま状態のレイがなんとか動こうとウゴウゴしていたけど、やがて静かになる。
ブリュネと対戦した時と同じで、テンションが一気に下がったんだろう。
「レイ!」
アキヒサは魔術で飛んでドラゴンの背中に行く。
ドラゴンに攻撃の意志がないのかと考えたのは当たりだったようで、近寄るアキヒサは攻撃されることなく、レイの目の前に着地する。
「レイ、落ち着いたか?
今氷を溶かすからな」
氷だるまのレイの前に膝をついたアキヒサは、熱風を魔術で生み出して氷に吹きつけて溶かしていく。
これは髪を洗った後のドライヤーとして編み出した魔術なのだが、まさかここで役に立つとは思わなかった。
氷がある程度薄くなると、レイは自力で氷を割った。その氷のせいで冷えた手を、アキヒサは掴む。
「ああほら、酷い怪我をしているじゃないか……治癒」
アキヒサが皮膚が裂けて血が流れる拳を治していると。
ひしっ!
レイが手をアキヒサに握られたまま、両足を使ってアキヒサにしがみついてきた。
「レイ? どうした?」
突然の行動に、アキヒサがレイの顔を覗き込むと。
「……」
無言でぼうっとしていた顔に、だんだん涙がにじみ出てきて。
「……っうわぁぁあん!!」
なんと、レイが大声で泣き出した。
前に宿でギャン泣きされた時よりも、一生懸命な泣き声で。
「しんでないぃー!」
そう泣きわめいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます