第108話 レイVSドラゴン

「臭う、臭うぞ……」


ドラゴンがズシン、ズシンという地響きと共に、こちらへ近付いてくる。

 それに合わせて、湖の水がザバァン! と波立って、アキヒサたちはそのたびに大きな水飛沫がかかり、全身がさらにびしょ濡れになっていく。


「……」


ドラゴンに睨まれたことで、レイはようやく敵対スイッチが入ったのか、前のめりの体勢になる。


 ゾクッ!


 その時、アキヒサは何故か悪寒が走った。


「……っ、結界!」


アキヒサがとっさに結界を張って防御した、その次の瞬間。


「フンッ」


ドラゴンが身じろぎをした直後、地面が揺れてアキヒサをもの凄い衝撃が襲って来た。


「かはっ……!」


一瞬の事だったので、アキヒサには一体なにが起きたのか分からない。

 気が付いたら洞窟の壁に激突していたのだ。


「……ち、治癒」


アキヒサは全身の強烈な痛みに意識朦朧になりそうになったが、根性で治癒の魔術をかける。

 自分で治癒をしている間、ドラゴンが水から完全に出ていて、尻尾をユラユラとしているのが見えた。


 ――もしかして、あの尻尾に叩かれたのか?


 アキヒサはとっさに結界を張ったのでそれで攻撃をある程度防いだはずだが、それでもこのダメージだ。

 結界がなかったらもしかして命が危なかったのでは? と思うとゾッとする。

 その尻尾はアキヒサだけを狙ったのか、はたまた単に偶然かすっただけだったのか、背の低いレイとシロには当たらなかったらしく、一人と一匹で元居た場所に取り残されている。

 ただ、レイがビックリした顔でアキヒサを見ていて、シロも無事みたいだけど、白目をむいて気絶しているっぽい。

 ドラゴンの前に一人で取り残されているレイと、ついでのシロが心配だ。


「……レ、に……」


レイにまずはあの場から逃げるように言いたいアキヒサだが、傷は治癒の魔術で治っても、身体に受けた衝撃の影響なのか、大きな声が出ない。

 そのレイは、しばし呆然とした顔で壁にめり込んだアキヒサを見ていたのだが。


「……」


無言でドラゴンを見たかと思えば、弾丸のような勢いで突撃する!


「グァッ!」


レイの体当たりを受けたドラゴンの身体が押し戻された。


 バッシャァーン!


 そしてものすごい水しぶきを上げて、湖へ落ちる。


 ――いやいや、あのドラゴンとの質量差で押し勝つって、レイはどんだけなんだよ!?


 他の魔物であったなら、あの弾丸攻撃で戦闘終了なんだろうけど、今回は様子が異なるらしい。


「……やはりな」


湖からザバァン! とドラゴンが起き上がる。

 痛がっている様子もなく、どうやら無傷のようだ。


「小さくなっているので違うかと思ったが。

 ワシに生身で押し勝つ存在は、古よりただ一つのみ」


ドラゴンが口を開け、鋭い牙をギラつかせた。


「キサマ、『鬼神』だな!?

 小僧の戯言かと思っていたら、なんとなんと起きていたとは!

 念のためにかような場所までやってきて、正解だったか!」


ドラゴンがそう叫ぶと、声が衝撃波のように襲い掛かり、アキヒサの肌にビリビリと響く。

 それにしても、気になることを言っている。


 ――小僧って、なんのことだ?


 まるでレイのことを誰かに聞いたかのようなセリフである。

 それにドラゴンはレイを『鬼神』と呼んだ。

 となるとレイの存在や鬼神スキルのことを知っているのか?

 けどレイは、あのコンピューターの様子だと、少なくとも千年は眠っていたはず。

 ドラゴンとはそんなに長生きなのか?


「鬼神よ、マスターにより永遠の眠りの中にいたはずであろうに、なにゆえここにいる!?」


ドラゴンがそう問いかけるのを、しかしレイは聞いていないみたいだ。


 ドガァン!


 ものすごい衝撃音と共に、レイがドラゴンの顎を蹴り上げた。


「キライ!」


レイはドラゴンにそう叫ぶと、次にパンチを繰り出す。

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