第107話 洞窟にて
「へぇ、湖だ」
そう、その場所には湖ができていた。
地底湖というのは聞くのだけれど、山の中にあるのはなんと言うのだろう?
カルデラは山の上の窪みに水が溜まったものだから、違うだろう。
でもどっちにしろ、自然の神秘だ。
「……」
その湖をじぃーっと見るレイは、そもそもこんな大きな水たまりを見たことがないわけで、川とは違う水のある景色に、興味はあるのだろう。
問題は、湖の存在よりも気になるモノがあるってことだ。
湖の真ん中あたりで、まるで島のように茶色くこんもりとした物体があるのだが、ソレがかすかに動いているのである。
―― ってことは、アレって生き物? え、デカくない?
その正体を確かめるべく、アキヒサは早速鑑定してみた。
だがしかし。
「は? エラー?」
鑑定結果が現れるはずのパネルに、「エラー」の文字だけが浮かんでいる。
これはつまり、鑑定できなかったってことだろうか?
今までそんな現象は起きたことがないのに。
突然の謎現象に、アキヒサが驚いていると。
クイクイッ
レイがアキヒサの服の裾を引いた。
「うん? どうした……」
アキヒサが何事かと尋ねようとした、次の瞬間。
ザバァッ!
湖から大きな水音がして、あの茶色いモノが起き上がった。
「ふぃ~、いい水加減じゃあ」
そんな声が響くと同時に、茶色いモノがぐぅーっと伸びをする。
やはり生き物だったかと思うその姿は、分かりやすく言えば大きなトカゲだろうか?
トカゲの頭に角がついて、背中にコウモリの羽根みたいなのがある。
これはまさに、まんまドラゴンだ。
――こんなドラゴンがやって来たら、そりゃあみんな逃げるよな。
それよりも今聞こえた声は、ひょっとしてこのドラゴンの声だったりするのだろうか?
ドラゴンとは喋れるものなのか?
アキヒサは色々混乱して、ボーッとそのドラゴンを眺めてしまう。
「まったく小僧め。
いつまでもわけがわからぬ煩いことといったら、たまらんわい。
まああれだけ焦がしてやれば、しばらく追って来るまいて。
ふいぃ~」
すると盛大に独り言を垂れ流したドラゴンが、またバシャアンと豪快な水飛沫を上げて湖に浸かる。
離れた場所にいたアキヒサたちにまで、その水飛沫が襲ってきたのは酷い迷惑だ。
そして先程の声は、やはりこのドラゴンのものだった。
――これは一体、どうすればいいんだ?
こういう状況は初めてなので、アキヒサは対応に困る。
鑑定がエラーを出して喋る魔物となると、話が通じるのでは? と思って攻撃する気がそがれてしまうのだ。
速やかに撤退なのか、話が通じそうなら会話を試みるのか、アキヒサが迷っていると。
「うぬっ? なんじゃ?」
アキヒサ達の気配をようやく察したのか、そのドラゴンの顔がグィン! とこちらを向いた。
「むむっ?」
そしてフンフンと鼻息をさせて、ぐっと顔を下げてこちらを見てくる。
ドラゴンから存在に気付かれたものの未だ攻撃されないままなので、ここは会話を試みるチャンスなのかもしれない。
けれど鑑定が効かなかったのも気になることだし、迂闊な行動に出ていいものか?
それにもっと気になるのは、まだレイがドラゴンに飛び掛かっていかないことだ。
――相手がデカ過ぎるからか?
だが今までだって、大抵の魔物はレイよりもサイズ増し増しだったのだから、大きさは関係ないだろうとも思う。
ドラゴンとレイが見合ったまま静かな状態に、アキヒサは見守るしか出来ないでいる。
このドラゴンが、レイがずっと気にしていた相手なのだろうか?
アキヒサが内心で首を捻りながら、レイの様子を伺っていると。
「キサマは……」
ドラゴンがそう呟くと、ギロッと鋭く睨んだ。
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