第106話 雪遊び

朝になると、窓の外は雪景色だった。

 どうやら夜の間に雪が降ったらしい。


「しろい」


レイは初めて見る雪景色を、寝室の窓越しにジィーッと見ている。


「レイ、朝ごはんを食べたら、外に出てちょっとだけ遊ぼうか」


アキヒサの提案にレイがコックリと頷いたが、まずはその前に朝食だ。

 昨日のチーズフォンデュの残りで、チーズリゾットを作った。これがなかなか美味しくて、このためだけにチーズフォンデュをしたくなる。レイもシロも大満足だったようだ。

 その後は、外が気になってソワソワしているレイに、ニケロの街で買っておいた冬物コートを着せて外に出てみる。


「しろばっかり」


レイは初めて見る雪を、不思議そうにペタペタしていた。


「つめたい」


そして濡れた掌を見て首を傾げる。


 ――あ、手袋を忘れてた。


 濡れたままだとしもやけになるので、丁寧に水気を拭ってから改めて手袋をつけさせると、雪について説明する。


「この白いのは雪って言ってね、あんまり寒いせいで雨が凍っちゃったんだよ」


「あめ、こおる」


「そうなんだ。もっとたくさん雪が降ると、雪だるまとか作って遊べるようになるんだよ」


アキヒサの説明を全部分かっているのかは定かではないが、感心して雪に手袋をつけた指をズボズボさしている。

 あいにくと今はそこまで積もっていない。

 雪は寒いと降るわけではなく、寒さプラス雨で雪になるので、昨夜はそこまでの降水量ではなかったのだろう。


 ――この辺りって雪が積もるのかな? 誰かに今度聞いてみよう。


 雪の具合で、冬の過ごし方が違ってくる。

 雪を避けて移動するか、ここで雪解けまで待つかの二択だろうか。

 けれどとりあえず今は、雪遊びだ。

 アキヒサが薄く積もった雪を集めて雪玉を作ってみせ、レイに軽く投げたらあっさりキャッチして、しげしげと見ている。



 ――雪玉に興味があるとか、子供らしいなぁ。


 レイと雪遊びができただけでも、ここまで登ってきてよかったかもしれない。


「雪がたくさん降ったら、もっとすごい雪遊びをしような!」


アキヒサがそう言うと、レイはコックリと頷いた。

 けどその前に、あの謎の鳴き声の正体か。

 それから雪玉を地面に返したレイだったけれど、それをシロがシャクシャクと食べてしまった。

 寒いところで冷たいものを食べると、お腹を壊さないか? とアキヒサは心配になる。

 なにしろシロはよくアキヒサの服の中に避難するので、くれぐれも中で粗相だけは勘弁してほしい。



雪で和んだアキヒサたちは、気を取り直して山頂にある洞窟を目指す。

 パネル地図をみながら山頂付近を捜索していると、やがてそれらしい場所を発見した。


「あ、あれかな?」


アキヒサは見つけた洞窟の中を覗く。

 洞窟は山頂から下へと延びているようで、結構深そうだ。

 入口には手押し車が放置されていて、恐らくは鉱石を採取に来た人たちが使うのだろう。

 石壁には灯り用のカンテラの下げられていて、よく人が出入りする場所なのが窺えた。


「さて、下りてみるかな。ライト」


アキヒサは宙に魔術の灯りを浮かべて灯りを確保したら、洞窟に入っていく。

 山登りが終わったと悟ったシロが、アキヒサの服の中から出てきた。

 洞窟に入って風が和らいだので、寒さもマシになったように思える。

 だが、寒くはない程度に洞窟の中には風が通り抜けていた。

 どこか別のところに出入り口があるのだろう。おかげで空気が流れているので、窒息の心配はなさそうだ。

 その上、他の危険も感じられない。


「中に魔物はいないなぁ」


探索スキルで探っても、ヒットするのは鉱石ばかりだ。

 レイの気配察知にも引っかからないのか、横をポテポテ歩いている。

 魔物がいないのでただ歩くだけの散歩に等しく、途中で休憩をしてさらに進むと、やがて広い場所に出た。

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