第105話 チーズフォンデュ

「あ、暖炉がかまどにもなるんだな」


暖炉の造りに気付いたアキヒサは、せっかくだからこちらのかまどを使いたくなった。

 それにコレだと、アレがやりたくなるではないか。

 アレというのは、ずばりチーズフォンデュ! アイカ村で美味しいチーズを手に入れたばかりなのである。

 実はアイカ村は酪農をやっている村らしく、飼料の大麦が大量にあった理由も納得だ。

 というわけで、今日の夕食はチーズフォンデュで決まりだ!



 チーズフォンデュの作り方は簡単だ。

 鍋にチーズと白ワインとミルクを混ぜて温め、それに好きな具を絡めて食べるだけである。

 施設を出て独り暮らしを始めたばかりの頃、テレビで見たチーズフォンデュが食べてみたいが、そんなオシャレな料理を出す店になんか当然行くお金がなく、レシピを検索して自分で作って食べたのだ。

 同じ施設を出た仲間と集まって、パンとソーセージでチーズフォンデュパーティーをやったのは、そう遠い記憶ではない。

 あの頃は、まさか自分が入った会社がブラック企業だとは思ってもいなかった。

 そんな思い出はともかくとして、チーズフォンデュを作っていこう。

 鍋を温まったかまどに置くと、チーズと白ワインとミルクを入れる。

 白ワインは、料理酒代わりになるかと買っておいた安物だが、まさかここで役に立つとは思わなかった。

 チーズを混ぜながら、同時に黒パンを暖炉の火でカリカリに焼いて、他にもソーセージや野菜も出しておく。


「……」


 チーズのいい匂いに釣られたようで、離れたところで積み木遊びをしていたはずのレイとシロが、無言でジワジワと暖炉ににじり寄ってきている。


「うん、そろそろいいかな?」


チーズがいい感じにトロトロになったところでかまどから降ろし、床に置く。

 皿に焼けた黒パンやソーセージに野菜もセットして、準備完了だ。


「レイ、シロ、じゃあ食べようか」


アキヒサが声をかけると、レイとシロはいそいそと寄ってきて座った。


「じゃあ、いただきます!」


「いただきます」


「アン!」


食前の挨拶をしてから、早速食べる。

 アキヒサはまず黒パンにチーズを絡めてから、ちょっと冷ましたのをレイの皿に乗せてやる。

 チーズがしみて柔らかくなるので、レイにも食べやすいと思う。

 レイの分を冷ましてやっているうちに、アキヒサも自分の分の黒パンをチーズに絡めて。

 こちらはまだ熱いうちにパクリと頬張る。


 ――うん、美味しい!


 日本で食べたものよりも美味しいのは、このテント住宅の雰囲気と、素材の味だろうか。

 日本の安アパートという場所と、近所のスーパーから買った材料で作ったものとは雲泥の差だろう。

 アキヒサが食べた様子を見たレイは、自分でもチーズが絡んだ黒パンを多少ハフハフしながらも食べる。

 そしてモグモグしてから、皿をサッと差し出す。

 どうやら美味しかったらしい。

 レイに先程と同じようにして乗せてやると、シロも皿をカリカリと引っ掻いていたので、こちらにも皿に乗せる。

 ソーセージも野菜も、ただチーズを絡めただけなのに美味しい。

 そしてお腹から温まる。

 やはり身体が冷えていたのだ。

 パクパクと食べると、用意していた分を全て食べてしまった。

 気が付けばお腹が一杯だ。


「これから寒くなるし、チーズを多めに買っておいて、また食べような」


「たべる」


アキヒサがそう言うと、レイはこっくりと頷いた。

 食事が終わると少しお腹を休ませ、風呂に入ったら明日に備えて早めに就寝だ。

 ベッドに入ってレイと一緒に布団に包まると、寝つきがいいレイはあっという間に寝てしまう。


「すぅすぅ」


レイは寝ていると、年相応のあどけない寝顔を見せる。

 シロを抱きしめて眠る姿は見ててすごくホッコリするのだけれど、実は道中で意識が半分山頂を気にしていて、心ここにあらずみたいな様子だった。

 今のところ戦闘に支障はないからいいが、当然このままの状態だといつか危ないことになる気がする。

 レイが気にしている正体がなんなのか、早くはっきりさせてモヤモヤをスッキリ解決させてやりたいものだ。

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