第103話 猟師たちの話
アイカ村での肉パーティーからの、トム捜索から一夜明けた朝。
アキヒサたちは宿屋でぐっすり寝て、美味しい食事を食べたらもう元気いっぱいだ。
ちなみに元気になったのは、アキヒサたちだけではない。
重傷だった女の子のお父さんのギルも一晩寝たらすっかり良くなっていて、神の奇跡だと騒ぎになっていた。
予定していた通りでなによりだ。
アキヒサたちはそんな騒ぎを横目に、猟師の人たちがマーダーモンターナの素材を処理しているところを訪れている。
ゴルドー山について、改めて教えてもらおうと思ったのだ。
もちろん、ニケロの街でもゴルドー山にはどんな魔物が出るかなどは調べた。
けれどゴルドー山が生活の一部であるこの村の猟師たちからは、また別の意見があるかもしれない。
それに昨夜のあの鳴き声についても、意見を貰いたいところだったのだが。
「あんなデケェ声のヤツなんざ、俺も聞いたことがねぇな」
話を聞きたいと言ったアキヒサに、猟師の中でも年嵩の男性が、トム同様にそう言った。
「だがな、もし山にいるとしたら山頂だろう」
けれど、猟師はそうとも付け加える。
「ああ、あそこな」
他の猟師たちもそれぞれ頷いている。
「山頂に、なにがあるんですか?」
尋ねるアキヒサに、年嵩の猟師が教えてくれた。
「そこそこ広い洞窟があるんだ。
昔っからある天然ものでな、鉱石が採れるんだよ。
たまに採掘目当てで登っていく余所者がいるぜ」
なるほど、この情報はニケロの街では聞かなかったものだ。
その洞窟とやらは、ニケロの街側から行くのが難しいのかもしれない。
「にしても、ここまで響いたんだ。
身体も相当デケェことは間違いないだろうな」
「ああ、たまに空を横切るワイバーンだって、あんな声出さねぇよ」
他の猟師たちもそれぞれに語る。
確かに、ワイバーンならたまに上空を通過するのを目撃するが、あんな鳴き声は出さない。
少なくとも対象の魔物が、ワイバーン以上なのは間違いないということだろう。
「そもそもが俺らのご先祖様だって、そんなおっそろしいモンがうろつく山の間近に、村なんて作ってねぇよ」
「そりゃそうだ」
最後の意見に、猟師たちが皆して頷く。
これも確かにその通りだ。
「だがよ、おかげでここのところ魔物の動きがおかしさが腑に落ちたな。
あんな鳴き声のヤツがどっかからか移ってきたのなら、そりゃあ元から住んでいる魔物も動物も、ビビって逃げるってもんだ」
「ああ、やっぱりこのところの異変を、そう考えますか?」
しみじみと語る一人にアキヒサが尋ねると、相手は大きく頷いた。
「けど問題は、ソイツがゴルドー山にずっと住む気なのかってことだ。
もしあの山を住処にしちまうのなら、俺らも村を捨てることを考えにゃならん」
猟師たちの話を聞いて、アキヒサも「うーん」と唸ってしまう。
――普通に考えると、そうなるよな。
このままの状態が続くなら、アイカ村に住むことは相当なリスクだ。
調査に出たガイルたちは、今一体どうしているだろう? 昨夜のあの鳴き声で、トム少年みたいに恐慌状態になっていなければいいのだが。
アキヒサがこうして情報を集めている一方で。
「……」
ちょっと離れたところにいるレイはシロを抱っこした状態で、ボーッと山頂辺りを見つめている。
あれからあの鳴き声は聞こえないのだが、何故か気にしているのだ。
たまに「ウーウー」と唸りながら、スッキリしないといった顔をしている。
けれど不思議なことに、レイは「鬼神」スイッチが入らない。
今までだったら魔物の気配を察知した途端に、鬼のように突撃して狩りまくるレイなのに。
――もしかして、あの鳴き声の主は魔物ではないとか?
いや、だが動物ではあり得ないプレッシャーだった。
あれが敵ではないならば、一体何者なのか?
アキヒサは気になってしまい、レイに近寄って隣にしゃがむ。
「ねえレイ、あの鳴き声のことをどう感じた?」
アキヒサは分かりにくい聞き方をしているなと思いつつ、あえて尋ねてみる。
レイは真剣に考えているようで、アキヒサはギュッと皺になっている幼児らしからぬ眉間を揉んでやる。
「怖い? やっつけたい?」
さらに尋ねると、これにはレイはすぐにフルフルと首を横に振る。
「じゃあ、会ってみたい?」
これには、首を捻るものの否定はしないけど、会いたいというわけでもなさそうだ。
やっつけたい敵ではないけど、会いたいのとも違うということか。
――なんだか、聞いたら余計に混乱したぞ?
気になる事を放置するのは、精神衛生上良くない。
ということで、「やっぱりゴルドー山の山頂まで行ってみるしかない!」という結論になった。
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