第100話 トム少年を探せ!

 けれど、村の人たちでは探索が無理な理由が他にもある。


「今戦力になりそうな人は、皆怪我をしていますよね?」


「……そうでしたな」


モーリスに村の現状を確認すると、がっくりと肩を落として頷く。

 その状態で大勢で探しに出るなんて、余計に危険だろう。

 それよりもアキヒサ一人で探しに行った方が、人目を気にせず早く行動できる。


「それに僕、トムくんがどこにいるのか分かるかもしれません。

 薬草は、ゴルドー山にあるのではないですか?」


「……! はい、群生地があるんです!」


アキヒサが尋ねると、モーリスが何度も頷く。


 ――となると、やっぱりゴルドー山の反応はトム少年か。


「けどよぅ……」


「あの、トツギさん!」


まだアキヒサ一人に頼むのが不安らしいヤンさんだったが、彼がなにかを言うよりも早く、モーリスがアキヒサに向き直った。


「村長としてトムの捜索を依頼をします!」


このまま揉めていても時間がもったいないと判断したらしいモーリスが、依頼の形で告げてきた。


「わかりました、お受けします。

 レイ、シロ、行くよ!」


とうわけで、アキヒサは夕闇の迫る中、ゴルドー山に向かうのだった。



村を出たアキヒサたちは、人目がなくなれば魔術で飛んでの高速移動で、あっという間にパネル地図で反応のある辺りに降りた。

 村人が大勢で出られたらこの手が使えなくなるので、これも一人でと申し出た理由の一つだ。

 それにしても、夜だから当たり前だが暗い。

 電灯なんてものはなく、灯りといったらランプの火がせいぜいのこの世界では、日が暮れたら月や星明かりが頼りだ。

 山に入ったらその明かりだって、木々に邪魔されて届かない。

 というわけで。


「ライト」


アキヒサは魔術で灯りを出すと、それを宙にフヨフヨ浮かせたまま、山を進む。


「うーん、トムくんがいるのはこの辺りのはずなんだけど、いないなぁ」


アキヒサはパネル地図と地形を見比べながら、首を捻る。

 大きな声で呼べればいいのだろうけれども、それで魔物を刺激したら元も子もない。


「レイ、なにか分かる?」


レイの気配察知に引っかからないかと尋ねてみるけど、こちらもまた首を捻っている。

 恐らくは魔物の反応があり過ぎて、トム少年の気配が消されてしまっているのだろう。


「シロは臭いとか……わからないか」


夜の山が怖いのかプルプルしているシロを見て、アキヒサはみなまで尋ねずとも理解する。

 そんなわけで、頼りの探索スキルの精度を上げるべく、パネル地図を精一杯に拡大してみる。


「ここは……あっちか?」


すると現在地から見ての反応のある方向だけでも分かったので、そちらに向かって歩いていく。

 途中襲ってくる魔物はレイが適当に狩ってしまって、二人と一匹でキョロキョロしていると。


「ん? どうした?」


アキヒサの裾をレイがグイグイと引っ張る。どうやらなにかを見つけたみたいだ。


「トムくんがいたのかい?」


「あれ」


尋ねたアキヒサにレイが指さして教えた先には、大きな木があった。

 樹齢何年か分からないくらいに立派で、その根元をよく見たら、洞ができている。


「気付かなかったな」


昼だったらすぐに見つかったのだろうけれど、暗いせいもあって見逃していたみたいだ。

 それに目線が低いレイだから、見つかったみたいなものかもしれない。

 パネル地図と見比べると、反応があるのはまさにその洞のある木のあたり。

 となると、トム少年がいるのはあの洞の中か。


 ――にしてもここって、結構山の深い所なんだけど。六歳ってこんな所まで歩いてこれるものなんだな。


 アキヒサは感心しつつ、念のために注意してゆっくり歩きながら、洞に近付く。


「トムくん、そこにいるかい?」


出来るだけ穏やかに呼び掛けると、洞の中で物音がする。


「……だれ? 村の人じゃない」


そして、子どもの声が聞こえた。

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