第99話 いなくなった子ども
「こんな賑々しい時にトムのことで騒がせるのも悪ぃと思ってよ、カミさんと二人で探しているんだけどなぁ」
ヤンがボヤきと心配が混ざったような口調で告げる。
「あの、トムくんという子は幾つですか?」
「あ? ああ、あんちゃんが冒険者か」
アキヒサが尋ねると、ヤンはモーリスばかり見ていたようで、初めていることに気付いた顔をした。
頭の中が息子のことで一杯で、他の事が考えられないのだろう。
「トムは今六歳だ」
それでも、ヤンが答えてくれる。
――六歳か、じゃあ意外と遠くまで行けちゃう年齢だし、そりゃあ心配だろうなぁ。
アキヒサもスキルで探してやりたいところだが、生憎そのトムという子どものことを知らない。
それでもなんとかなるのか? とアキヒサは試しにパネル地図を表示させて、「人間の六歳の男の子」という条件で検索をかけてみる。
すると村の子であろう反応が複数映る。
どうやらこんなアバウトな条件でもOKらしい。
そして検索結果の中で、気になる箇所がある。
なんと一つ、村の外に反応があった。
しかもゴルドー山方面だ。
「あの、ゴルドー山って、六歳の男の子が一人で滞在するような決まりがあったりしますか?」
山の神事的な理由があるかもしれないと思って、アキヒサは一応聞いてみたのだが。
「は? そんな素っ頓狂な決まりがあるわけないだろうが」
ヤンが目を丸くして、モーリスも「なに言ってるんだコイツは」みたいな顔になる。
どうやらそんなことはないらしい。
となると、この反応がトム少年だろうか?
「あのですね……」
アキヒサがこのことについてどう説明するかと、迷いつつも切り出そうとした時。
「アンタ、大変だよ!」
そう叫びながらこちらへ駆けて来たのは、小さな女の子を抱えた女の人だった。
「ギルのところの嬢ちゃんじゃねぇか。親父さんはどんな具合だ?」
ヤンさんが心配顔を消して、優しい顔になって女の子に話しかける。
「あの娘の父親は、一番酷い怪我でしてね。
トツギさんが間に合わなかったら手当てが遅れて、死んでしまっていたかもしれない。
本当に助かって良かった」
モーリスがアキヒサに説明してくれるが、幸いにもギルは出血が止まるのが早かったし、他にも軽症者は気が付いたら傷が無くなっていたりと、不思議な現象が起きたのだそうだ。
どうやらギルとは、あの怪我人たちの中でも酷そうだった人のようだ。
アキヒサは明日の朝に完治するように治癒をかけたのだが、症状を軽くする効果はすぐに出たみたいである。
そして軽症者は明日を待たずに治った人がいるということらしい。
――安心してください、ギルさんも明日の朝には治っていると思われますので。
アキヒサは口には出せないので、心の中で教えておく。
そんなアキヒサの内心はともかくとして、女の人は慌てていた。
「それが大変なんだ、ギルのために薬草をとってくるって、トムが……!」
「はぁ!? もしかして村の外へ出たのか!?」
女の人が懸命に説明するのに、ヤンさんが驚く。
ということはつまり、トム少年は一人でこっそり村から出て、薬草を探しに行ったってことなのか?
それはめちゃくちゃ危ないことだろう。
「あたしが、泣いていたから、トムがまかせろって」
女の子も大変な事態だと理解できたのか、涙目になっている。
この話を聞いて、モーリスとヤンが慌て出す。
「そりゃあ大変だ、すぐに探しに行かないと!」
「申し訳ないが、村の衆にも声をかけよう!」
「待ってください、モーリスさん、ヤンさん」
だがそんな二人に、アキヒサは待ったをかけた。
「大勢で動くと、魔物を刺激してしまいます」
「それはわかっている! しかし早くしねぇとトムが……!」
もどかしそうに唸るヤンに、アキヒサは続ける。
「だから、僕が探しに行きます。
これでも、探索は得意なので」
アキヒサはつとめて落ち着いて聞こえる声で、しっかりと言った。
「さがす」
いつの間にか親子丼二杯目と丸焼き肉を完食していたレイも、続けて言った。
食べるのに夢中だったレイなので、おそらく話の内容をあまり分かっていないと思うが、アキヒサが何かを探すなら自分も探すぞ、と言いたいらしい。
シロは確実に分かっていないのにドヤっているのが、なんだかお馬鹿可愛い。
「このあんちゃんと、ちっこいのが?」
ヤンが訝し気な目になるが、どうやらヤンは幼児無双の現場を目撃していないようだ。
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