第97話 モーリスは感激屋

アキヒサたちが親子丼を味わっていると。


「トツギさん、食べていますかな?」


そこへモーリスが、こんがり焼けた肉の塊の載った大きな皿を持ってやって来た。


「一番おいしい部位を是非にと言われましてな、持ってまいりました。

 それにしても、こんなに立派な肉まで売っていただき、どんなに感謝してもしきれませんん……!!」


モーリスが皿を捧げ持つような姿勢で、号泣してしまった。


 ――いやいや、その姿勢は止めて!?


 なんだかイケニエを捧げられている気分になってしまうではないか。


「僕の方でも肉がだぶついてましたんで、その余剰を買い取ってもらっただけですから!

 そんなに頭を下げないでください!」


「なんとお優しいお言葉ぁ!」


モーリスは顔を上げたものの、さらに号泣モードだ。

 まあ、モーリスがこうなるのもわかる。

 食べるものが制限されると栄養が摂れなくなって身体が弱るし、気持ちも荒むものだ。

 きっと村の中で些細なものから大きなものまで、揉め事が絶えなかったことと想像がつく。

 そこへ来ての、山賊襲来だ。このままだと村人たちのストレスがピークに達しただろう。

 けれど突如の肉投入で、村人たちのストレスが吹き飛んだわけだ。


 ――うーん、肉パワーって凄いな。


 アキヒサが感心していると、「ところで」とモーリスが話を変えてきた。


「トツギさんたちは、見たことのない料理を食べられてますな?」


モーリスが、アキヒサたちの会話をガン無視して親子丼に夢中なレイを、チラッと見て言う。

 やっぱりコレが気になるらしい。

 レイが貰った丸焼き肉も気になるようなので、アキヒサは一口サイズに切り分けてあげつつ、モーリスに説明した。


「これは丼物という料理でして。

 上に載っている黄色いのが卵で、下に詰まっているのは、実は大麦です」


「大麦!? あの大麦ですか!?」


モーリスの驚く様子に、アキヒサは苦笑する。

 やはりこのあたりでの大麦は飼料であるようだ。

 親子丼を離そうとしないため両手が塞がっているレイに、アキヒサは切り分けた丸焼き肉を「あーん」で食べさせながら、話を続ける。


「ええ、家畜の餌に使われる大麦です。

 けど僕の故郷では料理をして食べるんですよ」


「ほう! ところ変われば、ですなぁ!

 けど分かります、この村で普通にスープなんかに使う香草が、ニケロでは雑草だと言われますからな」


モーリスが拒否感を見せるかと思いきや、そんなことを言う。


 ――なるほど、この辺りに自生しているハーブがあるのか。


 どんなものなのか後で探してみようと、アキヒサは心のメモに書き記しておく。


「それに大麦が食べられるなら、助かるというか。

 実は、小麦の保存小屋がいくつか焼けましてな。

 しかも小麦畑も荒らされ、今期の収穫が減る見込みなのです」


続けて、モーリスがそんなことを話す。

 それは確かに困るだろう。


「あ、でも大麦ならあるとか?」


「そうなんです、飼料は村はずれに保管していたんで、無事なんです」


アキヒサの確認に、モーリスが頷いた。

 なるほど、残った大麦が食べられれば大いに助かるというわけか。


「なら、口に合うかどうか、試しに食べてみますか?」


というわけで、モーリスに丼物を御馳走することになった。

 けれど親子丼ではなく、作り置きの牛丼だ。


「なるほど、匂いは普通に美味しそうですな」


盛り付けて差し出された牛丼の器を、恐る恐る受け取ったモーリスがしばらく呼吸を整えてから、意を決して食べる。


「うん? 美味いぞ? なんでだ?」


思わず疑問を口にするモーリスだが、今まで家畜の餌だと思っていたのが美味しかったら、そりゃあそんな反応になるだろう。

 モーリスが試食している間に、アキヒサも丸焼き肉を食べる。


 ――うん、ジューシーで美味しい! 丸ごと焼くから、旨味が逃げないのかな?


 アキヒサはそんなことを考えつつ、丸焼きをまだ欲しがるレイに再び「あ~ん」をしてやりつつ、大麦について考える。

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