第96話 親子丼を食べよう
どうして肉が食べられてないのか、アキヒサは説明した。
「ゴルドー山からつよーい魔物が降りて来ちゃったせいで、村の人が危なくてお肉を狩りに行けなくなってたんだって」
「あぶない、ダメ」
レイなりに、魔物が多くて危ないという認識はうっすらとあったようで、コックリと頷く。
「だから、早くゴルドー山で何が起きているのか、わかるといいねぇ。
そうしたらお肉が手に入るようになるし」
「おにく、だいじ」
アキヒサの話をレイが本当に全部をちゃんとわかったのかは定かではないが、納得顔でゴルドー山をじぃーっと見つめていた。
それはともあれ。
アキヒサもそろそろ料理の準備をしなければならない。
モーリスからは御馳走するって言われたのだが、レイには親子丼を作る約束をしたのだ。
というわけで、親子丼を作っていく。
その間、レイはいつものように葉物野菜を千切ってサラダを作るお手伝いだ。
まずはマーダーモンターナの肉を適当な大きさに切り分け、玉ねぎを薄切りにする。
そして小鍋に、牛丼の具で使った「とまり木亭」の御主人特製ダレと水を適量入れると、煮立たせてから肉と玉ねぎを加えてさらに煮た。
仕上げにマーダーモンターナの卵を溶いたものを回し入れ、半熟状になれば火から降ろす。
これを、あらかじめ用意していた麦飯を盛った器にそっとのせたら、親子丼の完成だ。適当な葉物を散らせば、ぐっと高級感が増す。
親子丼とレイ作サラダ、アイカ村の奥様方が作ったスープが並べば、夕食メニューの完成だ。
レイのサラダには、ブリュネのご近所さん特製ドレッシングがかかっていて、美味しそうに仕上がっている。
「よし、食べようか」
アキヒサはそう言って、地面にシートを敷いた上に座り、それぞれの目の前に料理を並べる。
いつもならテーブルとイスを出すところだが、村の皆が広場に集まってピクニックみたいにしていることから、アキヒサたちもそれに倣ったってわけだ。
しかしレイはそんなことは特に気にならないようで。
「たまごとおにく!」
視線は親子丼に釘付けで、今までで一番笑顔っぽい顔になっているだろう。
「約束通りレイの好きなもので作ったから。
たーんと食べてくれな」
アキヒサはそう言って笑いかける。
ちなみにアキヒサたちの他はどうしているかというと。
広場の真ん中ではたき火をして肉の塊を丸焼きしていて、まるで地球のケバブみたいに焼けた肉をそぎ落として配っていた。
肉の焼けるいい匂いがするので、後で貰いに行こうと思う。
しかし今は、目の前の親子丼だ。
「「いただきます」」
「アン!」
食前の挨拶をすると、早速アキヒサとレイはスプーンで親子丼を掬い、シロは器に顔を突っ込む。
――うーん、和食には箸が欲しくなるなぁ。
今度、手触りのいい木を探して作ってみるのもいいかもしれない。
アキヒサはそんなことを考えつつ、親子丼の乗ったスプーンを口に運ぶレイを眺める。
「……!」
すると、レイはカッと目を見開いたかと思ったら、真剣な表情でモグモグしてからゴックンすると、目を閉じて余韻を味わうかのように黙った後。
「びみ」
一言呟いた。
――美味ってことかな?
どこでそんな言い方を覚えたんだろうかと気になるが、ブリュネあたりが言いそうではある。
そんなレイの観察は程々にして、アキヒサも親子丼を食べる。
卵がトロトロで玉ねぎの味も染み出ていて、これまで食べた親子丼の中でも最高に美味しい。
味付けは慣れた和風ではないんだけど、「とまり木亭」の御主人特製ダレがなかなかに合っている。
――ニケロの街へ戻ったらお礼を言わなきゃ。
それにしても、これは肉もそうだが、卵も美味しいからだろう。
やっぱり、マーダーモンターナの巣を探したくなってきた。
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