第95話 お肉が食べたい

アキヒサが喧嘩になる前にと、二人の割って入って説明する。


「すみません、マーダーモンターナを解体して、素材を買い取ってほしいんです。

 肉は半分程度渡してもらえれば、残りは買取で構いません」


これを聞いた息子のザッシュだけではなく、おじいさんもポカンとしていた。


 ――あれ、どうしたんだろう?


 アキヒサが首を傾げていると。


「「マーダーモンターナぁ!?」」


二人揃って叫ばれた。

 店の中の品物を見ていたレイが、ビクッと驚いてアキヒサの足に抱き着き、シロがレイの頭の上から落ちた。


「マーダーモンターナって、あの暴れ鳥か!?

 群れで出る行商の敵の!?」


「それを、兄ちゃんが狩ったぁ!?

 ありゃあ軍を出してもらわにゃならん魔物のはずだがなぁ……」


ザッシュとおじいさんが口々に言う。


 ――あれ、そうだったのか?


 レイがあっさり狩ったものだから、そんな大物だと思わなかったアキヒサである。

 というか、「またこのパターンか!」という気分だ。

 しかし、もう今更引っ込みがつかない。


「どうも街道沿いに巣が出来ていたようで、危ないので根絶やしにしてきました」


アキヒサはそう話しつつ、鞄をゴソゴソしてマーダーモンターナを頭だけチラ見せしてみせた。


「マジックバッグか!」


「しかも根絶やしたぁ……」


ザッシュとおじいさんが呆気にとられている。


「だから山ほど入ってます。

 それで、解体お願いできますかね?」


彼らにアキヒサがお伺いをたてると、ザッシュが「待て」と言ってきた。


「これから猟師連中に声をかけてくる。

 ここのところずっと村のモンは肉をろくに食えてねぇんだ。

 こりゃあ祭りだぞ!」


ザッシュはそう言うなり、店を飛び出して行った。

 残されたのは、アキヒサたちとおじいさんだ。


「はぁ、兄ちゃんは大物だなぁ」


「はは……」


しみじみとそう告げたおじいさんの尊敬の眼差しに、アキヒサは笑って誤魔化す。

 アキヒサも一応いくらか倒したものの、根絶やしにしたのは主にレイだ。

 他人の手柄を横取りしたみたいで、微妙な心境になる。

 そんなやり取りをしていると、レイがアキヒサの服の裾をクイクイと引いてきた。


「どうした? レイ」


「おにく、たべられる?」


ザッシュが飛び出したのが不安だったのだろう。

 どうやら話の流れが分からなったらしい。


「うん、食べられるよ。

 卵も使って、美味しいのを作ろうな。

 親子丼っていうの」


「おやこどん」


レイがかすかに表情を明るくする。

 親子丼がどんな料理か分からないだろうに、「卵も使って」というのが嬉しいようだ。


 ――こりゃあ、気合を入れて作らなきゃな!


 アキヒサは改めて気合を入れた。


山賊に襲われて、大変な目に遭ったアイカ村だったが。


 日が傾いてきている時刻である現在、広場では肉パーティーの準備が進行していた。


「肉よ肉、しかも干し肉じゃないなんて、いつぶりかしら……!」


「しかもマーダーモンターナなんて、普段でも食べられるもんじゃなし!」


広場の片隅で肉を捌いている奥様方が、ある人は涙ぐみ、ある人は興奮で目を血走らせて、包丁を握っている。

 一方で、男衆は動ける人を総動員して、アキヒサが持ち込んだマーダーモンターナを広場から離れたところで解体していた。

 さすがに今日全てを解体するのは無理だということで、小出しにしている。

 とりあえず今日は、これから食べる分を解体して捌いてという流れ作業が出来ている。

 アキヒサたちはその様子を、広場の片隅で見守っていた。


「おにく、みんなうれしい?」


肉パーティーの準備模様を、レイが不思議そうに首を傾げているので、アキヒサは状況を教えてやる。


「この村の人たち、ずっとお肉が食べられなかったらしいからね。

 久しぶりだからすっごく嬉しいんだと思うよ」


「おにく、ない……!?」


するとこれを聞いたレイが、真顔で固まってしまう。

 どうやら肉が食べられないというのが、レイにはショッキングであったようだ。

 確かに肉食幼児なレイにとって、肉が食べられなくなったら事件だろう。

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