第94話 依頼完了、からの再会
その後、書類にモーリスから依頼完了のサインを貰ったら、補給物資運搬の仕事は終了だ。
それから村に一軒だけだという宿屋の場所を教えてもらい、支払いはモーリスが持つという一筆も受け取ってから向かう。
その途中で怪我人を集めて手当てをしている現場に遭遇したので、おやつを食べて休憩したおかげで魔力が回復したアキヒサは、コッソリ治癒の術をかけた。
急激に完治しても謎と混乱を呼びそうなので、寝て起きれば朝には治っているイメージである。
一番重症だという人も一晩で治るってことなのだが……そこは妖精の悪戯ってことでどうだろうか?
アキヒサがそんな通りすがりの一仕事をこなして、再び宿へ歩いていると。
「おんやぁ? 兄ちゃんじゃねぇか」
途中でそう声をかけられた。
この世界での知り合いがまだまだ少ないアキヒサなので、「誰だろう?」と思って振り返ると、どこか見覚えのあるおじいさんがいる。
――って、ニケロの街まで荷馬車に乗せてくれた人だ!
「どうも、お久しぶりです!
ここはあなたの村だったんですね」
なんという偶然だろうかと驚くアキヒサに、おじいさんの方は首を捻っている。
「そういう兄ちゃんはチビもワンころも一緒だが、またなんでこんな時にここにいるんだぁ?」
確かにおじいさんの言う通り、魔物の問題で乗合馬車も商人の行き来もなくなっているというのに、余所者がいるなんて不思議だろう。
「実は冒険者になりまして、ギルドで補給物資の運搬を引き受けてきたんです」
「そうかい!
はあぁ、兄ちゃんは腕の立つお人だったんだなぁ」
アキヒサが伝えた内容に、おじいさんが感心しきりである。
――あ、そうだ。この際せっかくだから聞いてみよう。
実はモーリスに聞きそびれていた、現在最も重要な問題があるのだ。
「あの、この村で獲物を解体してくれる店ってありますかね?」
そう、村に着いたらマーダーモンターナの肉を料理すると、レイと約束したのだ。
一度我慢してもらったのだから、早くしないと二度目の我慢は可哀想だ。
これに、おじいさんからすぐに回答があった。
「おお、それならウチの息子が店で請け負っとるぞ。
なんでも扱う雑貨屋だ」
なるほど、どうやらリンク村の雑貨屋みたいなもらしい。
「ついでにその獲物の肉、余計にあるなら売ってくれるとありがてぇんだがな」
さらにおじいさんがそんなことを言ってきた。
「なにせ山賊と魔物のせいで、猟師が山へ入れねぇんだ」
「ははぁ、肉がないのは困りますね」
おじいさんの話を聞いて、アキヒサも同情する。
肉は健康維持のために必要な食材だ。
補給物資は保存のきく物が大半だろうから、あっても干し肉だろう。
ここで無視することなんて出来そうにないアキヒサである。
「あの、すごくたくさん狩ってしまったので、分けるのは構いませんよ」
むしろ狩り過ぎて、一体どのくらいの期間食べれば無くなるのか、謎である。
「そうか! そりゃあ助かる!」
アキヒサの申し出に、おじいさんが嬉しそうな顔をした。
こうしてマーダーモンターナの一部を売ることが決まったのだが。
「レイ、雑貨屋に行くことになったんだ。
もし疲れたなら先に宿へ行くけど……」
アキヒサが一応、レイに確認しようとすると。
「おにく」
レイはアキヒサがみなまで言うまもなく、即答である。
――そうか、そんなに鳥肉を楽しみにしていたんだな。
卵だって養鶏のものとあんなに違ったのだから、肉はどれだけなのかと期待が高まるというものだろう。
というわけで、レイたっての願いもあり、宿より先に雑貨屋へ行くことにした。
雑貨屋は山賊被害を免れたそうで、特に壊れたり焦げたりはしておらず、アキヒサたちを先導するおじいさんがドアを開ける。
「おぅいザッシュ、客だ客!」
「あぁ!? 冗談を言ってるな父さん、こんな時にそれどころじゃねぇだろうが!」
声をかけたおじいさんに怒鳴り返してくるのが、店主だという息子さんだろう。年齢は四十代くらいか。
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