第93話 補給物資も忘れずに
これに、モーリスも「あ!」という顔をした。
どうやらあちらも忘れかけていたようだ。
「そうでしたね!
物資はこの広場に置いていただけますか?
村の外に置いているのでしょう?
男衆にも手伝わせますから」
「大丈夫です、ここにありますから」
慌てるモーリスに、そう言ってアキヒサは鞄からドドン! と地響きと共に補給物資を取り出す。
相変わらずの、一メートル浮いた状態での出現である。
「なんと!? 妖精の鞄ですか!?」
地響きを立てて出現した荷物に、モーリスが驚く。
「はい、これがあるから僕に依頼がまわってきたんです。
身軽なので速く移動できますから」
アキヒサの説明に、モーリスが「なるほど」と頷く。
「けれどおかげ助かりました。
この騒ぎで食料が燃えた家もありますので……。
おぅい、集まれ!
荷物が届いた、急いで分けるぞ!」
モーリスが遠巻きにこちらを伺っていた村人たちに声をかける。
「本当か、村長!」
すると途端にワラワラと村人たちが集まって来るが、見たところ酷い怪我人はいなさそうだ。
「あの、それで先程の質問ですが、怪我した人はどうしていますか?
それに、亡くなった人は……」
アキヒサが最悪の事態を想像しつつ問いかけると、モーリスはニカッと笑った。
「今回幸運にも、死人が出ていないんです。
見回りの若い衆がちょっと怪我が酷いようですが、それも薬で治る程度でして、街まで医者を呼びに走らせるほどではない。
これもあなたが早くに駆けつけてくださったおかげです、本当にありがとうございます!」
モーリスはアキヒサにそう言って何度目かの礼を述べる。
その傍らでは。
「おい、あの子どもだろう?」
「なんか、凄かったけど」
「マジか、あんなにちっこかったか?」
荷物を分けに集まった村人たちが、レイを見てヒソヒソしている。
話している人たちは幼児無双を実際に目にしていても信じられないようで、半信半疑というか、狐につままれたといった様子であった。
そして当の噂の主は、そんな視線はガン無視して野菜クッキーに夢中である。
たまにジュースをグイっと飲んで「プハァ」とやっているところなんて、なんだか堂に入っている。
――でも、怪我人はいるんだな。
小心者なアキヒサは、どうしてもそこを気にしてしまう。
後でちらっと様子を見て、コッソリ治癒の術をかけておくのはどうだろう?
なにせこういう村で男手が怪我で働けないなんて、生活の困窮に直結しそうだ。
しかしそれよりなにより、気になるのは山賊たちがどこから来たかだろう。
「あの、村の人に聞いたんですが、山賊たちはそもそもゴルドー山にいたんですか?」
アキヒサが尋ねると、モーリスは頷いた。
「そうなんです。
昔っから山に巣食っている奴らでね。
この街道を通る商隊なんかを襲っていたんです」
モーリスの話は、さっきの女の人に聞いたのと大体同じものだった。
この街道はゴルドー山を迂回して通る道で、山の向こう側へ通じる。
だからここで山賊家業をしやすいというのは、まあ分からなくもない。
そんな連中が山を降りて村を襲ったということだが、山賊にとって、この村を襲うメリットはあるだろうか?
村を襲うと山賊たちへの警戒度が上がって、本格的な討伐隊を組まれることになるだろう。
それを避けるために、街道でチマチマとやっていたはず。
「なにか、山にいられない理由があったんですかね?」
「さぁ、けどただでさえ魔物を追い返すのが大変だってぇのに。
こいつらまで襲ってくるなんざ、頭が痛いですよ……」
モーリスがしかめっ面をする。どうやら理由までわからないようだ。
――やっぱり、ゴルドー山でなにかあったのかな?
アキヒサは山の頂辺りをよくよく眺めるが、特になにか異変を発見するわけでもなし。
これは調査隊に期待するか、ガイルたちがなにかを発見することを祈るしかない。
そう思って、ゴルドー山から目を離し、ふとおやつ中のレイに目をやると。
「……」
アキヒサに釣られてゴルドー山を見たらしいレイが何故か、眉をギュッと寄せている。
「レイ? どうかした?」
アキヒサが尋ねると、レイはギュッとなった顔のままこちらを見た。
「……へん? なんかいる」
そんなことを告げた。
今までレイの反応は、敵か否かの二択だった。
それが今の微妙な発言に、アキヒサまで眉がギュッとなる。
――生体兵器が変って言うのって、一体なんだ?
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