第91話 山賊も魔物も同じです
誰もいなくなった跡地に一人降り立ったアキヒサは、懐から飛び出たシロを横目に、レイに伸された男を観察する。
「うーん……」
彼らの格好は村人っぽくなくて、むしろこの風体は――
「山賊?」
アキヒサがそんな風に思い至っていると。
「あの、助けが来たのですか?」
年配の女の人の声がしたかと思ったら、崩れかけた家の塀の陰から姿を見せた。
彼女は伸された連中と違い、見るからに村人っぽい風体である。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「はい、私は隠れることができたので……」
アキヒサが尋ねると、彼女は弱々しいながらも頷くので、そのまま聞いてみた。
「あの、こいつらは何者ですか?」
この質問に、彼女が「うっ」と涙をこらえて語り出す。
「山賊ですっ!
ゴルドーの中腹辺りを根城にしていて、時折数人が街道を襲う程度だったのに。
何故か今回は大勢で村を襲って……!」
彼女の説明に、アキヒサは「う~ん」と唸る。
――ここでもゴルドー山かぁ。
ここまで発生した問題は全てゴルドー山関連だ。
本当に、なにが起きているのだろう?
けど、それはともかくとして。
山賊の方はレイに任せておけば平気だろう。
いくら武器を持っているとしても、レイをどうにかできそうな相手は、上空からざっと鑑定してみた結果いなかった。
むしろオーバーキルを心配するレベルの雑魚である。
となると、アキヒサの仕事は伸された連中の拘束と、消火活動だろう。
そんなわけで、アキヒサは放置されている山賊たちを見つけては魔術で地面に埋める作業をしていく。
竈作りで土いじりに慣れた成果がこれほど早くに見せられるとは、思ってもみなかった。
そして同時に、燃えている家屋の消火だ。
「ウォーターシャワー」
こっそり小声で唱えると、上空に水が集まったかと思ったら、大雨のように降り注ぐ。
フワフワ飛んでいたシロがこのせいで濡れそうになり、慌ててアキヒサの所へ逃げてきて懐へもぐりこむ。
「なんだ、雨?」
「でも、ここだけ?」
超局地的な大雨に、懸命に井戸に水をバケツでかけていた村人たちが、不思議そうに首を捻っている。
アキヒサの今の魔力量だとあまり長時間降らせられないのだが、家屋の上の方の火の手が消えたら、後は村人たちのバケツリレーで消せる程度だ。
そうなると後は任せることにして、次の火事現場へ行く。
魔術を使っていて感じるが、風や土のように元々あるものを利用する魔術より、火や水といった生み出す過程のいる魔術の方が魔力を使うようだ。
多分、火や水の魔術は上級者向けなんだろう。
けれどその話は置いておいて、こうして山賊を埋めて火を消してと動き回るうちに、魔力が切れそうなクラッとした感じがしたので、確認すると魔力の残りが2になっていた。
――危ねぇ!?
この数値が0になると昏倒するのは、既に実験済みだ。
もちろんレイとシロを驚かしたらいけないので、夜寝静まってからやってみたのだ。
気絶して次に気付いたら朝の遅い時間だったのだが、珍しく寝坊したアキヒサに、レイが不思議そうな顔をしていたものだ。
魔力が無くなりかけているのなら、アキヒサの役割は終了だ。
大混乱な村人を横目に、広場なっているところまでやってくると、片隅にベンチがあるのを見つけてそこへ座る。
「あー、疲れた」
するとちょうどそのタイミングで、レイが両手に「荷物」を引きずりながら駆けてきた。
「荷物」からは「うっ」とか「ごあっ」とか呻き声が聞こえて、引きずられているから擦り傷だらけだが、アキヒサはその待遇を叱る気にはならない。
まあレイにとって敵は、山賊だろうが魔物だろうが扱いは同じってことだろう。
「お帰りレイ、片付いたかい?」
そう尋ねると、レイは「当然だろう」的なドヤ顔で頷く。
「そっか、じゃあ動いてお腹が空いただろうし、おやつにするかい?」
「……!」
おやつと聞いてレイの口角がかすかに上がり、山賊をポイっと放り投げると、いそいそとベンチのアキヒサの隣によじ登って座る。
アキヒサの残りの微かな魔力程度でも山賊たちを埋めるくらいはできるので、ちゃんと埋めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます